グローバリズムについて、ウィキペディア(日本語)では、以下のように書いている:
グローバリズム(英: globalism)とは、地球を一つの共同体と見なして、世界の一体化(グローバリゼーション)を進める思想である。字義通り訳すと地球主義であるが、通例では、多国籍企業が国境を越えて地球規模で経済活動を展開する行為や、自由貿易および市場主義経済を全地球上に拡大させる思想などを表す。
以下、この記述をグローバリズムの定義と考えて議論する。
数百年の人類の目標をどう設定するかは自由であるが、地球を一つの共同体と見做すことなど遠分出来る訳がないことは、この100年間の世界での出来事を見れば明らかである。従って、思想の部分は凡そ非現実的だと思う。
現実的には、上記ウイキペディアの記事の“通例では”に続く文が、グローバリズムの中身だと思う。
1)グローバリズムの二つの側面について:
グローバリズムは2つの部分(側面)或いは段階からなる。一つは①「自由貿易および市場主義経済を地球上に広げる」であり、もう一つは②「国を跨いだ資本移動を自由にし、生じた多国籍企業に自由な経済活動を可能とする」である。グローバリズムの政治経済に与える影響の議論では、この二つを区別することが大事だと思う。
この内、市場主義経済と自由貿易の拡大は、財の生産を最も得意な国、或いは能率的な国で行い、それを互いに輸出入で交換することで、双方を豊かにするという人類の知恵だと思う。20世紀後半からその動きが活発になり、そのためにGATTなどの体制が作られた。例えば日本では、農業や資源生産は不利なので、農産物や石油・天然ガスなどの輸入が容易になり、且つ、それらの輸入量は増加した。その一方で、得意な輸送機器や工作機器などの輸出が増加している。
もう一つの面は、「国境を跨いだ資本投下を、世界中どこにでも可能にする」という、国際間の資本取引及び資本投下の自由化である。その結果、単純労働者を必要とする産業は発展途上国に移り、そこで安価に製品を作ることが可能となる。それは、仮に先進国全体の経済を豊かにしても、仕事の一部を途上国に奪われた先進国のブルーカラーは、失業や全体として賃金の実質低下に苦しめられることになる。そして、貧富の差の拡大とデフレ傾向が先進国共通の課題となる。
国内生産が不利であると考えた先進国に残った企業も、賃金の安い移民労働者を利用して他の先進国企業との競争を容易にしたいと考えるだろう。そして、必然的に人の移動の自由化を考える人が増え、移民受け入れの一つの圧力となっていると思う。
会社に対して、新たに“法人”という形で一定の権利と義務を付与し、保護育成してきたその国の国民にとっては、会社法人(企業)の裏切り行為である。一体、誰のために、そして、何の為に存在する法人なのか(補足1)、わからなくなってきている。
他民族は全く別の文化を持っているため、移民増加は治安の悪化や契約行為の複雑化(阿吽の呼吸ではすまなくなる。)、地域社会の破壊など、現在様々なトラブルを引き起こしている。国家全体としては、住民の間に深刻な分断を持ち込むことになる。それが地震の断層のように動いて、政治上の混乱の原因となる可能性がある。(補足2)
グローバル化の問題が議論される切っ掛けとなったのは、「デフレ傾向、貧富の差の拡大、移民の増加(治安の悪化や文化の破壊)」である。ネットでグローバリズムに否定的意見を出している方々としては、経済評論家では三橋貴明氏、政治評論家では馬渕睦夫氏が代表的である。
先進国においては、余剰労働力を新事業例えばサービス業などへ移動させることで解決するのが本来のあり方である。(補足3)もし、失業率が一定程度以下であり、GDPが順調に増加しておれば、問題の解決は本来国内で行われるべきだろう。
また、多国籍企業の進出により、発展途上国の経済は豊かになる。しかし、副作用として本来その国に企業が発生し、調和の取れた経済構造が出来るというプロセスを阻害することがある。従って、グローバリズムを新しいタイプの植民地主義と見る見方も存在する。つまり、途上国が経済発展する前に、そこに出かけて会社つくり、そこの儲けを占める体制を作っておきたいという先進国資本のエゴイズムだという主張が成立する。
この国際間の資本規制を取り払うことは、そして、多国籍企業の誕生と成長を許したことは人類の間違いだろう。(補足4)しかし後戻りは難しいので、何らかの軌道修正が必要だろう。
2)トランプ米国大統領の対外政策について:
今回のトランプ大統領のアメリカ・ファーストという姿勢は、米国の白人ブルーカラーの貧困層への転落の原因を、上で①と分類した自由貿易体制とみなし、それを破壊しようとしている様に見える。つまりトランプの米国は、自国の巨大資本の意向を汲み、グローバリズムを推進したにも関わらず、自国経済における歪、貧富の差の拡大などの上記問題点を自由貿易の所為にして、それをエゴイズム的に強引に解決しようとしているように見える。
下の図に示すように米国のGDPは順調に増加している。日本などに比較すればそれがよく分かる。この順調なGDPの伸びは、上記自由貿易体制の下に達成されたのだと思う。もし、保護貿易的な政策をとれば、世界の経済は縮小し、米国も大きな打撃を被るのではないだろうか。
米国が抱える白人ブルーカラーの貧困化の原因は、グローバル化による部分もあるだろうが、主に国内での富の不公平な分配ではないのか。ブルーカラーの不満を、グローバリズムのリーダーだった米国が、外国にその責任を押し付けるのはおかしい。
勿論、中国との知財に関するトラブルは、中国の責任として解決してもらわないといけない。しかし、その他の国との貿易自体は公正に行われている筈である。
具体的に話を進めると、トランプ大統領が問題として取り上げている、中国との貿易不均衡や日米の貿易不均衡自体は、本来問題にすべき事柄ではないと思う。世界の経済を豊かにした自由貿易体制においては、既に述べたように、自国が上手く生産出来ない物を生産する国に対しては輸入超過になり、得意な物の輸出相手国に対しては輸出超過になるのは当たり前である。それを一対一の国家間で差し引きゼロを目指すという考えは、物々交換の考え方である。
日本も産油国相手には輸入超過であり、貿易は不均衡だろう。そのかわり、別の国との間では、輸出が輸入を超える。それは当然のことである。日本は米国車に高い関税をかけているわけではなく、単に米国の車にそれほどの魅力がないだけである。円/ドルレートも、市場の取引で決まっており、その値は購買力平価からも日本の円が安すぎるということにはならない。
トランプの自由貿易自体を破壊しようとする、所謂「トランプの反グローバリズム運動」は、世界経済にマイナスだと思う。
ただ、移民阻止や外国資本の流入制限などは、その国が独自に決定すべき政策であると思う。グローバル化は人類の方向であるかもしれないが、あくまで新たな歪や不公正や不均衡を生じないような、ゆっくりとしたプロセスで自然に進むべきだと思う。
利己的な動機で拙速にグローバル化を行うことは、世界秩序を破壊することになると思う。現在の資本移動と資本投下の自由化を含むグローバル化は、速く進み過ぎたと思う。今後、多国籍企業の巨大化には何らかの歯止めをかけるとか、それらが上げた利益の分配の問題を国際的に公平となるような改革など、話し合いが必要だろう。
素人のメモですので、間違いの指摘など歓迎します。
補足:
1)単に人の集まりにすぎない会社(企業)に、法人という独立の人格を与えたのは、独自の権利と義務を普通の人(自然人)のように与え、その企業活動を容易にし、保護育成するためである。それは、あくまでもその社会或いは国家を構成する人のために役立つという前提の下の政策である。
2)多量の移民は、国内部に断層を生じさせる。それが国境を破壊するための企みであるかどうかは、現時点では分からない。ただ、最近のEU圏への移民を目指したボート・ピープルと米国を目指す中米からの移民キャラバンを見ると、似ているような気がする。
3)日本の人手不足は色んな側面がある。人口構成が極めて歪んでいること、定年制、若年層の高学歴化(全く高学力化ではない)など、別途議論し解決すべき問題が多い。また、外国人労働者を入れることに関して、年金問題と絡めた議論もある。
4)中国では多くの分野で、海外企業が進出をする場合、50%程度の資本を持つ合弁企業としてしか許可されないという。つまり、多国籍企業は100%出身国の資本で進出出来ない。
追補:米中覇権戦争と米国第一主義 (11/23/18:30追加)
トランプ大統領の反グローバリズム政策について真正面から反対するのは間違いかもしれない。その強引で利己的に見える米国第一主義は、現在米中の覇権戦争的な展開を見せている。中国の大胆な世界展開に力でストップをかけられるのは米国のみであるから、反自由貿易のような姿勢は、マッドマンズ理論を用いた巧妙な作戦であると考えられないこともない。
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