パナマ運河及び北極海航路に対する中国の影響力が増大しつつある。それらに対する米国の優位性を守るべく、トランプ次期大統領が早々と動き出している。この件、国際政治解説のカナダ人ニュース(youtuber のやまたつさん)がまとめているが、その内容も含めて以下紹介する。https://www.youtube.com/watch?v=VPT67bjIJRE
1)トランプさんが目指すパナマ運河の支配奪還
パナマ運河が海運の要衝であることは地図を見れば明らかである。そこで運河建設を考えた米国のS.ルーズベルト政権(共和党)は、コロンビアの一部だったパナマ地域を独立させ、1903年11月18日に運河地帯の主権をアメリカに譲渡する条約:パナマ運河条約を締結した。(補足1)建設までに多くの犠牲者(35000人とも言われる)を出したものの、運河は1914年に完成した。
第二次大戦後にパナマでも民族自決の意識が高まり、民主党カーター政権の1977年に運河を1999年迄にパナマに移譲する条約(新パナマ運河条約)が締結された。その後、共和党ブッシュ(父)政権は運河の権益喪失を恐れてパナマに侵攻し、当時のノリエガ政権を倒した。このアメリカの軍事介入は国際的批判を浴びた。
しかし民主党のクリントン政権の時、新パナマ運河条約の規定どおり運河はパナマに移譲され、2000年からパナマ領有となった。
トランプ大統領が就任前にも拘わらずパナマ運河の領有を目指すとSNSへ投稿したのは、その要衝に中国の支配の手が伸びていることを警戒し、その排除の方向に一歩を踏み出す切っ掛けとするためと考えられる。(補足2)
トランプ大統領の声明が単なる領土欲を背景にしたものではない上、全く法的根拠に欠けることでもないようだ。新パナマ運河条約には、パナマ運河の中立性に対する脅威に対して米国が軍事力を行使する権利を留保するという条項があるからである。
https://www.csis.org/analysis/key-decision-point-coming-panama-canal
パナマ運河は世界貿易の6%に関係している。パナマ運河を通過する船の2/3かそれ以上は、米国から又は米国への船であり、中国から又は中国への船も13%を占める。この運河の通行料は年々値上げされており、インフレを抑えるというトランプの公約も、パナマ政府と交渉を持ちたいもう一つの動機だろう。(補足3)
尚、中国は既にパナマ運河の重要性から、この地域への権益拡大を戦略としている。その結果、パナマは2017年6月には台湾は中国の一部であるとして台湾と断交し(https://gendai.media/articles/-/64400?page=2)、同年11月にはラテンアメリカで最初に一帯一路構想への参加を表明している。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/06/post-7800_1.php
元々パナマ地域を領有していたコロンビアは、できるならパナマを取り返したい。コロンビアは、その目的でコロンビアとパナマとの間のダリエン地峡と呼ばれるジャングルに道路を建設している。そのコロンビアを中国は支援していると、沖縄出身のジャーナリスト我那覇真子さんと米国ジャーナリストのマイケル・ヨン氏が語っている。
この道路建設は、我那覇さんが発見したと上の動画で語られている。パナマ運河の中立性に対する脅威は増しているのだ。
2)グローバルな航路の支配を考える中国
中国習近平政権の看板は一帯一路戦略であった。ユーラシア大陸の東西を横断する陸のシルクロードと海のシルクロード(差し当たりベネチアからスエズ運河とインド洋経由で中国東岸に至るルート)を想定して、人と品物の流通を促進して富を中国に運ぶ戦略である。
これらの”シルクロード”は経済的ルートのようだが、当然政治的権力を運ぶルートでもある。しかし、そのシルクロード構想の看板に偽りありのようだ。中国の戦略は、グローバル覇権を目指す構想だったようである。
大西洋を西に向かって北極海を臨むアイスランドからグリーンランド経由で南北アメリカを縦断南下するルートの獲得もその一つの構想のようだ。その重要な要衝が最初に言及したパナマ運河であり、次に簡単に触れるアイスランドやグリーンランドである。この中華秩序のグローバル化戦略をトランプは警戒しているのである。
2008年の金融危機の際、アイスランドはIMFやEUに金融支援を仰いだが十分な協力が得られなかった。その要請を聞きつけた中国は、アイスランドと素早く通貨スワップ協定と自由貿易協定(FTA)を結ぶことになった。
その後、中国はアイスランドを北極海航路の主要な海運センターとすべく、北部の湾に深海港を建造するなどの計画を同国と交渉しているようだ。更に中国企業は、アイスランドに広大なリゾートを建設する計画を立てて、土地買収をしようとした。しかし後者については、アイスランド政府は安全保障上の問題と考えてそれを不認可とする賢明な判断を行った。
これらの戦略は、パキスタンやスリランカへの支援同様、グローバル化構想の拠点つくりの一環であると思われる。https://president.jp/articles/-/71516
中国は同様の戦略に基づいてグリーンランドにも投資を試みている。現在グリーンランドには先住民を中心に57000人程度が居住し、自治政府をつくっている。しかし、経済的にはデンマークに強く依存し、GDPの20%(自治政府予算の50%)に当たる資金を、デンマークからの援助に頼っている。
上のPresident Onlineの記事によると、2016年にも中国企業がグリーンランドにある旧米海軍基地施設を買収する案を持ちかけたことがあったようだ。その際、デンマーク政府が米政府の希望に配慮してこれを阻止したようだ。
グリーンランド議会の議長は「米国とデンマークは傲慢ごうまんだ。中国が私たちに投資したいなら、今後も排除しない」と、中国に対する期待を示した。この姿勢は今も変わっていないようだ。
トランプ次期米大統領のグリーンランドを買い取りたいという声明は、このような情勢を背景に出されたのである。
3)中国牽制の背景
米国の民主党政権の時に、中国はグローバル版一帯一路構想で堂々と米国を取り囲むように、南北アメリカに支配の拠点をつくろうとしてきたようだ。
その中国の姿勢は、世界の覇権国家である米国を脅かすものであり、習近平の言葉「広大な地球には、中国と米国の各自の発展、そして共同繁栄を受け入れるだけの完全な包容力がある」という東西二分割の論理とは矛盾する。(補足4)注意すべきは、米国民主党政権はそのような中国に融和的であったことである。
そこで思い出すのは、米国民主党や米国ネオコン政権とその背後の世界の金融資本家たちは、中国共産党政権に以前から融和的だったことである。それは、蒋介石を日本と対決させ、日本が敗れたあとは蒋介石への支援を止めて毛沢東の中国支配を見守った戦後史とも整合的である。
欧米のグローバリストたちは中国を統一世界の完成に向けた重要なプレイヤーと考えていると思う。そして、それは主権国家体制下の米国をも最終的には破壊する予定だと思われる。中国は、常にグローバリストのシナリオに沿って動いてきたようには見えなかったが、それはフェイントだったかもしれない。
米国トランプ次期大統領(予定)の米国第一政策(MAGA)は、主権国家体制の国際社会を前提としているので、このグローバリストの戦略と真正面から対立する。それらの間の最終戦争が2025年に顕在化するだろう。グリーンランドの買収やパナマ運河領有の発言は、その宣言の一つである。
兎に角トランプ大統領が2025年1月20日に無事就任式を迎えることを神に祈る。
補足:
1)コロンビアの内政に介入し、米国の下で動く勢力を育ててパナマ国として独立させたのだから、当然国際法違反である。勿論、日本の真珠湾攻撃も国際法違反である。しかし、ベトナム戦争もイラク戦争も、勿論ウクライナ戦争も宣戦布告などされていない。国際法とはその程度の”紳士協定”でしかない。
2)トランプ次期大統領(予定)が、次々と政策の準備を始めているのは、国民に出来るだけ早期にトランプ政権の方針を見せるためである。もし万が一バイデン政権が緊急事態で戒厳令を発布し、政権移譲が行われなかったとしても、その米国を第一に考える政策が国民の記憶に残るようにしたいと思っているのだろう。
3)運河通行料をやまたつさんの動画からコピーして、チャットGPTに単位などについて尋ねた結果を図にしたので、下に示す。
4)習近平政権の地球を東西に分けて米国と棲み分けるという案は、新モンロー主義的なトランプの構想と根本的なところでは衝突しない。しかし、その東西棲み分けの構想はまやかしであって、トランプが訪中した際にそれで胡麻化したのではないだろうか。トランプの「習近平は友達だ」という発言を思い出す。
==10:30編集あり==
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