トランプの相互関税や自動車関税などの目的についての議論が日本のネット空間では多くなされている。それを政治問題とも絡めて包括的に解説したのは及川幸久氏のyoutube動画が初めてだろう。 一つの目的は言うまでもなく、国家安全保障の問題としての製造業の国内回帰である。(補足1)もう一つの意味については、一部理解しにくい箇所もあったので、独自に少し整理してみた。https://www.youtube.com/watch?v=kYaMjA2YXAs
トランプ関税の目的と方法は、第一次トランプ政権からのスタッフであるスティーブン・ミラン大統領経済諮問委員会委員長の論文に書かれているという。つまり、ミラン氏による関税とドル安政策によって米国の貿易不均衡を解消するとともに新しい通貨体制を構築するという論文である。
https://www.hudsonbaycapital.com/documents/FG/hudsonbay/research/638199_A_Users_Guide_to_Restructuring_the_Global_Trading_System.pdf
上の論文においてトランプ政権一期目に、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課した時には物価上昇も招かず成功した経験が書かれている。その関税措置に対しての中国の対抗措置に対しては、通商法301条による60%という高い関税を多くの商品に課した。https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-07-05/PBEYN76K50Y201
その関税が物価上昇を招くことはなく、その実質的負担は中国国民の購買力低下という形で中国が負うことになり、米国は関税収入と米国での鉄鋼生産の一部復活などの成果を得ることになった。このあたりのことについては以下の動画(これも及川幸久氏の動画です)が分かりやすいhttps://www.youtube.com/watch?v=sYtGzhUQrXE
ただ、今回の関税政策は個々の製品やその生産国を対象にしたものではなく、はるかに大規模で一般的な関税である。これまでの小規模な政策で得た「関税が物価などマクロ経済指標に影響しない」という経験則は成立する保障など無い。その不確実な部分に関する自覚が、世界各国の株価の暴落を考慮しての90日間の一時停止措置となったようだ。
2)今回の相互関税の目的
何故、このような一般的な関税政策を実施すると言い出したのか? それには米国の経済的地位の低下、莫大な財政赤字、国際政治において危機的状況にあることなどの背景があり、その中心に決済通貨である米ドルを維持することの困難があると思う。つまり、嘗ての日本そして21世紀の中国の経済発展モデルが成功する条件として、米国の決済通貨を維持し自由貿易を広めるという大きな仕事があったと言うのである。
今回のトランプ関税の発表は、その役割を米国は今後維持することが困難であるという叫び声として聞くべきなのである。1985年のプラザ合意が、急発展する日本を対象の中心に置いたのなら、今回のトランプ関税は21世紀の中国を対象の中心に置いているということになるだろう。
現在、米ドルが決済通貨としての地位を徐々に失う傾向にあり、そしてそれが思ったより早く訪れた場合、米国は多額の政府債務とまともに対峙する羽目になる。例えばあるディジタル通貨が突然決済通貨としての地位を得た場合、米ドルのその地位の喪失と同時に起こる米国債の値下がりと高インフレに襲われることになる。
つまり、これまで膨張する世界経済を支える決済通貨としての役割を米ドルが果たしてきたのだが、その為には米国は多額の国債を発行し米ドルを発行する必要があった。そのような多額の借金をするという前半の段階は楽しいことなのだが、それを債務として意識する段階になると、つまり別の決済通貨にその役割を引き継ぐ段階になると、非常に重苦しくなるのである。
現在の米国はこの段階にあり、その重苦しさ故に、トランプの「これまで数十年間諸外国に搾取されてきた」というたぐいの表現になったのだと思う。一方、諸外国は何の憂いも不安もなく借金を積み上げる段階の米国を思い出して、何を勝手なことを言っているのだという思いを抱く。
やはり、米国の世界の決済通貨を発行し維持するというこれまで果たしてきた大きな役割に対する諸外国の評価がなければ、このトランプ関税に関する交渉はうまくいかないだろう。
今後、世界政治は混乱の時代に入る。それはこの通貨問題と無関係ではないだろう。その時、米国にこれまでのリーダー的な役割を望むなら、この大問題を一緒に考える姿勢が必要である。米国は、その中で中国の隣国である日本の協力は欠かせないので、首脳は日本に一定の配慮をしている。その配慮の意味を石破内閣は十分に考える必要がある。
兎に角、政府首脳は上に引用したスティーブン・ミランの小論文を十分読み込んで理解する必要があると思う。更に、4月5日のX上にアップされたタッカーカールソンのスコット・ベッセント財務長官へのインタビューなどを咀嚼して、それらに対する答えを準備して対米交渉を進めるべきである。
補足:
1)国家安全保障上の問題とは、戦略的に重要な半導体や鉄鋼などを完全に外国に依存してはならないということである。食料とエネルギーにおける安全保障がその最重要部分だが、その他に武器製造上に欠かせない半導体、造船業、鉄鋼やアルミなどの基本的材料の独自調達の能力維持などである。
== (12:00 冒頭部分編集と補足の追加)==
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