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2014年8月6日水曜日

慰安婦問題:朝日新聞の検証に対する5人のコメントについて

 8月6日の朝日新聞朝刊を買って、慰安婦問題特集を読んだ。昨日の朝刊に前半が掲載され、今日はその続き及び知識人のコメントが掲載された(1)。日本側から、秦郁彦、吉美善明、小熊英二の三氏がコメントを寄せている。秦氏以外はほぼ同じ主張である。要するに、現代的視点であの戦争時のことを、女性票を得るべく行なう選挙演説のように攻撃しているのである。あと、米国から二人の寄稿があった。これも、女性の人権が無視されたことが問題であり、いつまでも日本軍による強制連行があったかどうかが問題であるなどと言っていては、世界中から反感を買うだけだという意見であった。吉美氏や小熊氏とほぼ同じ意見である。つまり、それが朝日新聞の衣替えした主張なのだろう。
 
 ここで手記を寄せた秦氏を除く4人の方々は、実際にあった事を丁寧に検証し、過去の情況を背景に考え、法理論に照らして判断するという、現在の裁判で行なわれているような手続きでもって処理しても世界には通じない、世界は”情”で動いていると言いたげである。

 秦郁彦氏によれば、前回の検証(1997/7/31)では、吉田清治氏の証言をもとに書かれた記事(1982/9から10数回)に対する評価は依然曖昧であった;しかし、今回(8/5)吉田証言を完全に虚偽だとして、それらの記事を取り消した点は評価できる;しかし、慰安婦に関する個人的犯罪を持ち込んで、議論を曖昧にしているなど、不十分な内容である;ということである。また、同じく議論を曖昧にするためか、米軍がビルマで捕虜にした慰安婦達からの尋問報告から、その境遇について、“一ヶ月に当時の金で300円-1500円の稼ぎを得て、(中略)「都会では買物も許された」”と引用したくだりを今回は落しているとのことである。 

 私は、5人の感想文を読んで、秦氏以外のものには全く同意しかねる。そももそ、この歴史的出来事を、被害者と加害者という単純な図式で理解しようとする、朝日新聞の論調に協調する二人の方々や米国の評論家二人の知性を疑う(2)。慰安婦問題になると感情的になるのかも知れないが、”厳密に真理を追求し、論理的に法を適用する”という近代文明社会の礎を、無視しているのである。韓国の方々や、手記を寄せた秦氏以外の二人の日本人の方々と米国二人、そして多くの慰安婦像設置に協力している方々に問いたい:真実と論理を最優先する近代文明社会の礎を何と考えているのか。

 秦氏が書いているように、1)日本政府或いは日本軍による強制連行があったかどうかという点、そして、2)慰安婦の日常が性の奴隷的であったかどうかの二つの点が、加害者が日本国かどうかを決めるのである。軍など公的権力による強制連行が本当に行なわれ、或いは、日常が性奴隷(3)と言える場合には、当時の日本国を継承する現在の日本国が賠償責任を負うと思う。その厳密な意味での日本国に帰する責任の根拠は、今のところ何もないことを、今回の朝日新聞を含めて全ての日本の新聞が認めたことになる。

 今回寄稿した秦氏を除く日米4人の方々の主張の中で、真実として受け入れられるのは、次の一点である。つまり、慰安婦の方々は、多くは本人の意志の確認が無いまま売られたりして集められ、人生の多くの時間を苦悩で埋められてしまっただろうという点である。その境遇は、たとえ兵士の10倍の収入があったとしても、又、町に買物に自由に行けたとしても、多くの人は悲惨であったと感じただろう。仮に、収入として得た大金の一部を、家族に送金していたとしても、慰安婦の方々は被害者であると言えなくはない。ただ、加害者は誰か?その性を買った兵士達か?戦争を吹っかけた国か、吹っかけられた喧嘩を買った国か?彼女らを売った親達か?それとも、彼女達の稼ぐ金で生活を維持した家族たちか?答えが論理的な議論の帰結として出せるのなら、出してもらいたい。その場合の加害者として日本国一国が名指しで非難される言われは無い。
 
 ただ、歴史の責任が国家にあるというのなら、その加害者は間違いなくそのとき戦争に加わっていた国家群である。その中でも、日本国家が筆頭にくるだろう。しかし、その時の日本国には現在の韓国もふくまれることも忘れてはならない。従って、韓国が一方的に日本国を非難する事ではない筈である。それにも拘らず、現在の日本国が現在の韓国に謝罪すべきと、現在の韓国民が主張するのなら、その加害者としての位置に現在の日本国民が来ることになる。それは、一日本国民として我慢がならないし、もしそうならば、韓国民を日本国民の敵として看做さなければならないだろう。(4)
 
 米国が慰安婦像を9個も設置し、慰安婦を題材にしたミュージカルをニューヨークで演じるなど、この問題に関しては非常に積極的である。私の持論であるが、米国は原爆投下の罪を無くすことは出来ないので、何かで相殺したいのである。以前から、「あのとき原爆を落さなければ、日本国民と米国軍人の命が数百万人失われていた筈だ」という言葉があった。しかし、今一つ自分達でもピンとこないので、何か別のものが欲しい。その候補として、慰安婦を考えているのだろうと思う。 

 私が強調したいのは、「真実と論理」に判断の基準をおくことが、聖書の昔から、人間が人間たる所以である。その原点に戻るべきだと思う。 

注釈: 
1)朝日新聞は購読していないので、未だ十分読んでいない。今日の新聞はスタンドで購入して読んだ。
2)政治的意図を含むと考えれば、十分知性的ではある。
3)奴隷の定義は以下のようだと理解する:強制連行で移動させられ、そこで金銭的代償なしに働かされる。働かない場合には、暴力を振るわれ、命の保証もない。
4)職もなく喰う当ても無い女性が、不本意ながら売春婦として働き、自分と家族の糧を得ることが、歴史的にも今でも現実には存在する。彼女らも人類の社会における被害者と言えなくはない。ただ、加害者として単一の存在を特定できないだけである。

1 件のコメント:

  1. 正鵠を射た論であると思う。
    多くの人に読んで頂きたい。

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