注目の投稿

人類史の本流は中華秩序なのか、それとも西欧型秩序なのか

1)米国が露呈させた中国共産党政権の真の姿と日本の課題   日本が抱えている最重要な課題は、コロナ問題や拉致問題等ではなく、表題の問に対して明確な答えと姿勢を持つことである。短期的な経済的利益に囚われないで、現在が世界の歴史の方向が決定される時なのかどうかを考えるべきである。...

2017年4月14日金曜日

現代は、悪の遺伝子が国家を救う時代なのか?

1)前回、善悪は本質的な概念ではなく、多層的な構造を持つ社会(高度な社会)の発生と伴に生まれた文化由来のものであると書いた。生命は他の生命を食物にしたり、競争相手なら殺したりするが、それは善とか悪とかで形容できるものではない。熊が人を獲ったとしても、悪で裁く意味がない。同じように、人が、猿同様にボスが支配する小さな群れで生きていたとすれば、人にも善悪という概念は生じて居ないはずである。善悪は一体で、”野生に生きるということ”(生命活動)でしかない筈である。

その後人類が作った多層的な構造を持つ(高度に社会的な)グループ、つまり、種族、民族、そして国家と呼ばれるグループは、次のような性質を持つ。①グループの寿命は人の一生よりも長くなり、個人が命を賭ける主なる争いは、他のグループとの争い(戦争)になる;②メンバーの日常は殆どグループ内で終わる;③グループ内の統治とグループ間の折衝には、一部エリート層があたる。

このような背景で、グループ内の統治の簡素化効率化のために「善」、そしてその要素である義、和、忠、孝のような概念が教育されるようになった。そして生命活動を形成していた残りの部分は、「悪」に分けられ、悪の行為が正当性を持つのは主にグループ間の出来事に集約される。その結果我々人間は、本来一体であった「善と悪」を人の精神を構成する二つの要素のような錯覚を持つに至った。以上が前回の話を、別の角度から集約したものである。(自己認識能力の獲得との関連は前回記事に書きましたが、ここでは省略します。)

2)人の性格は教育だけで決まるのではなく、融和的な性格や攻撃的な性格などには遺伝子が関わっていると思われる。例えば、他人の痛みを全く考慮しないサイコパスの人が一定の確率で存在しているが、それはほとんど遺伝であるとの研究発表がされている。(補足1)

社会をつくることで善悪が発生し、社会が大きくなり、その内部で生きる人が大多数になるのと並行して、善を強く意識する性格の人の生存が有利になり、人の心理はその方向に誘導される。これは「進化心理学」の結論だろう。その適者生存のメカニズムにより、冷徹な性格の遺伝子はグループの構成員が増加するに従って減少するだろう。

しかし、グループの境界で他のグループと対決するには、より攻撃的で冷徹な人間の方が有利である。その境界人間に有利な遺伝子を“悪の遺伝子”と以下呼ぶ。それと反対に境界内部で生きるに有利な温厚且つ凡庸な人間の遺伝子を“善の遺伝子”である。

現在、人の運命共同体的グループは国家である。その200程の国家をメンバーとする社会を考えた場合、未だに野生の原理が支配する。つまり、善と悪が分離して、社会内を善が支配するに至っていないからである。それは、ここ数日の米国によるシリア爆撃やアフガン爆撃を見ても明らかである。(補足2)

地球は有限であるので、原始の時代には個人レベルや種族レベルでの殺し合いでヒトは自然淘汰されていたが、近代以降は国家間の戦争で淘汰される。その結果、サイコパス的に冷徹に長期的作戦をたて、敵となった国家を欺き攻撃し凋落させ、悪を用いて滅ぼす国の人間が生き残ることになる。

逆に、平和を愛する融和的な人間ばかりになった国は、将来的には滅びることになる。実際にそのような淘汰の例が19世紀にあった。ニュージランド沖の小島にモリオリ属という人たちが住んでいた。ある時、マウリ族が他のより大きな島から侵略したとき、モリオリ属は平和的な解決をしようとしたが、殆ど全員が虐殺されたのである。長い間に“悪の遺伝子(境界人間の遺伝子)”が少なくなった結果だと解釈できると思う。(ジャレド・ダイヤモンド著、「銃、病原菌、鉄」第二章参照)

3)国家や大企業(国家等)は、常に食うか食われるかの野生の空間に存在すると考えられる。国家等の争いにおいて他の国や個人を、(グループ内部に限られた)善の論理で扱っていては、その争いには勝てず、最終的には淘汰されてしまう可能性がある。また、緊急の場合にはグループの内部の人に、戦いというグループの境界を跨ぐ世界(悪の世界)に強制的に連れて出さなければならない。

戦争においては、司令官は非情な決断を下すし、そのような遺伝子を持たない人しか司令官に選べなかった国は滅びるだろう。その“悪の遺伝子”を持つ人は、流浪の民族や絶えず戦争を経験した民族に多いだろう。この“悪の遺伝子”がより強調されて存在するのがサイコパスだろう。(補足3)

ある本にサイコパス的な人の割合が西欧で4%と台湾や日本など東アジアに比較して数十倍も多いことが書かれているそうである。http://blog.midnightseminar.net/entry/2015/06/20/232909 東アジアの社会の方が、農耕民族として過ごす割合が多く、人と人の親密度が高いことがわかる。台湾や日本などは孤島であり、全体が統一された以降敵が現れる頻度が少ないので、悪の遺伝子が少ないのは進化心理学的に当然である。一方、西欧では民族の移動や民族間の抗争は有史以来頻繁に起こっていたため、サイコパス遺伝子が多く残るのだろう。

米国は流浪の民を多く抱えている。冷徹な知と“悪の遺伝子”を併せ持つ人が、政治や実業界で成功するチャンスが多い国である。それは、個が自立し自由を国是とする国だからである。それが、米国を地球上でもっとも多く、実業界や政治の世界での成功者を出し続ける国にしている理由ではないだろうか。「トランプはサイコパスか」という題目の記事が多いのは、世界が争い時期に入り、悪の遺伝子こそ民族を救うという時代なのかもしれない。http://www.independent.co.uk/news/world/americas/donald-trump-psychopath-researcher-oxford-university-kevin-dutton-a7204706.html

補足:
1)実験心理学者の調査によると、サイコパスの人が一卵性双生児の片方であった場合、全く異なった環境で育ったもう一方も同じ性質を持っているとの結果を得たという。
2)善悪の秩序は法の支配によりなされる。しかし、国際法は法としての権威を有していない。米国による中東での行為の殆どは国際法違反である。つまり、国際間は未だ野生の原理が支配している。
3)Kevin Dutton著の“The Wisdom of Psychopaths”に書かれているそうである。詳細は以下のサイトを参照:http://rocketnews24.com/2016/02/04/702271/ ここでは、1940年代に既に近代社会の成功者、例えば政治的な成功者、にはサイコパス遺伝子を持った人が多いとの説が発表されているという。(精神科医のハーヴェイ・クレックレーの説)

0 件のコメント:

コメントを投稿