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2021年7月4日日曜日

中国に乗っ取られたのか? 日本の右翼

上島嘉郎氏のオフィシャルチャンネル(youtube) での「大英帝国を乗っ取り世界を支配した一族の物語、Rothchild」と題する動画を見た。この動画は、ユダヤ資本の近代史と現代における位置付について偏見に満ちた記述をしている。この動画を流す人たちは、表題のように日米の間に楔を打ち込みたい人たちの為に働いているように見える。

 

 

これは、看板の写真で分かるように林千勝氏による近刊書「The Rothchild」の宣伝動画である。そして動画の最後の方に林千勝氏自身が登場する。この宣伝動画のように「The Rothchild」という本が書かれているのなら、この本こそ“本物の陰謀論”ではないだろうか。https://www.youtube.com/watch?v=EKzATYoKoZY
 

陰謀論の特徴は、誤魔化しと矛盾を多く抱えていることである。それは、理不尽な議論を用いて、ある組織や個人を攻撃するのだから、当然である。

 

実際、この動画ではいろんな矛盾がある。日露戦争の際に、ユダヤ資本(米国ヤコブ・シフ)が、日本に年利6%(補足1)で関税収入を担保にするという「屈辱的な条件」(A)で日本に資金を貸し付けたと語っている。屈辱的な条件というが、それはユダヤ資本家の責任ではない。それに「貸し付けた」というユダヤ資本家の能動態で書き記すことで、貪欲なユダヤ人という印象を与えようという意図が見える。

上図は、上記動画中の写真である。文章は語りの内容であり、筆者の意見ではない。この動画が削除されることを考えて、図を借り挿入した。

 

その一方で、日露戦争当時は国際金融が驚くほど発達していたとも語っている。つまり、市場の原理で金利などの条件が決まり、ロンドンでは日本側の条件では公債の引受先が見つけられなかったのである。ここで挿入される高橋是清に同行した深井英五の語りは、前後の話と何の論理的繋がりもない。単に、ヤコブシフに対して腹黒い人物という印象を視聴者に与えるために入れたのだろう。

 

米国に出向いた高橋是清が漸く公債売却に成功したのは、ヤコブ・シフが引き受けて呉れたからだった。シフは、欧州市場では考慮されなかった何らか別の因子を考慮したのか、日本に対する格別の好意があったのかの、どちらかで購入を決定したのだろう。最後に少しこの点に触れるが、恐らく米国が狙う満州利権が絡んでいたのだろう。(追補1)

 

兎に角、それらの内の一つがなければ、日本はロシアのシベリア南下に抵抗でき無かっただろうし、戦争をしていれば、日本は負けていた筈である。その悲劇的シナリオから逃れられたのは、シフが日本公債を引き受けてくれたお陰である。何故、素直にそのように語らなかったのか? それは、仮にその本が陰謀論の類でなければ、視聴者を騙して本を買わそうという意図があるからだろう。

 

その前半部分の最後に、①結局基本的には資本主義の論理です(B)と言っている。資本の論理なら、その論理で日本側も公債の引き受け手を募集し、ロスチャイルドもその論理で公債を引き受けることになる。何処に、②屈辱的条件」(A)なる言葉で形容される売買が発生するのか? 本動画は何かに付けて、この手のインチキが多く組み込まれている。


 

2)「ロスチャイルド」=陰謀論?

 

これまで歴史を述べる際に、ロスチャイルドの名を出すと、必ず陰謀論と言われる。(6:50それは、力を持ちすぎたロスチャイルドが、世間からの攻撃を避けるために、3つの戦略:①表にでないこと、②関節的に統治する、③マスコミを支配する、を実行したことと関連している。
 

つまり、ロスチャイルド」に言及する政治や歴史解説の全てに対し、マスコミを用いて陰謀論のレッテルを貼り排除した(C)のである。具体的には、ロスチャイルドは、CFR(外交問題評議会)を設立し、影に隠れて米国を関節的に支配し、マスコミを支配下に置いたのである。

 

ここで、怪しげな議論が挿入される。戦前の日本では、当然のことのようにロスチャイルド家のことが良く知られ、一般市民すら井戸端会議で話題にしていたと解説する。ところが戦後は、ロスチャイルドやロックフェラーへの言及は厳しく統制の対象となったと話す。

 

その結果、戦後日本ではロスチャイルドのことを話したり、書いたりする人は、陰謀論の誹りを免れなかったと結論している。これも、近現代史に対する日本人の無理解を一方的に占領軍の責任に帰する暴論である。

 

どの国でも、多くの国家群の中で生き残る位置を確保しなければならない。国民にその現実に対する理解と意志があれば、もし仮に占領軍が井戸端会議までも検閲していたとしても、退去した翌日にはユダヤ金融資本の企みが話題になっていた筈である。
 

12:10ころから、19世紀以降、ロンドン・ロスチャイルド家が戦争、恐慌、革命を自ら仕掛け、裏で操り、大混乱の度に莫大な利益を得てきた(D)ことが分かります」と語り、そして、本書ではお金に忠実なロスチャイルド家が引き起こして来た数々の事件をお金の流れで丹念に読み解いていくと語る。

 

上記下線部分(D)が、上の「 結局基本的には資本主義の論理です(B)という言葉と完全に矛盾する。(補足2)

 

以上のモデルを紹介しながら、これまでのロスチャイルド家についての書籍は、曖昧な根拠に基づく所謂陰謀論の類、もう一つはロスチャイルド家自身によるもので、ファミリー史や伝記(自伝を含む)の二つのタイプに分類できるFと話す。(1230) このようにこれまでの本を評価するのなら、(F)上記(C)と矛盾する。
 

そして、この林千勝氏の「The Rothchild」は一次資料と論理に基づいた本であると紹介している。林千勝氏の「The Rothchild」がほとんど初めての(F:陰謀論か伝記)に含まれない本であるといいたいのだろう。
 

3)この新本紹介の目的は?

 

冒頭に書いたように、この新本の解説動画は、矛盾する言葉を距離を離して随所におき、米国を支配するユダヤ資本に対する敵意を視聴者に植え付けることを目的としてつくられていると感じる。最近のディレクト出版のyoutube上での本の宣伝、例えば西悦夫氏による明治維新(ユダヤ資本が関係)の解説など、日本と英米の近代史に於ける英米批判本の宣伝が異常に多い。(補足3)
 

今は、日米が結束して、自由と民主主義を護るべきときである。その時に、何故、米国の政治に関して支配的なユダヤ資本家に悪い印象を与えるよう努力するのか?その背後に中国の影を感じるのは私だけだろうか? 
 

ネイサン・ロスチャイルドが、ナポレオン戦争のときに英国公債の空売りで大儲けして、英国の貨幣発行権を得たことは事実だろう。しかし、ロスチャイルド一派がナポレオンを動かしたのではない。更に、日露戦争の日本発行の公債でも儲けたかもしれないが、ロスチャイルドが日露戦争を引き起こした訳でもない。従って、上記語りD)は真実ではない。この林千勝氏の本の紹介する動画は、陰謀論を振りまいている。それは林氏の「The Rothchild」の内容なのだろうか?

 

最後にある林千勝氏自身の話、「日本は現在国難にあり、その克服に欠かせないのがこの世界の構造とその100年ー200年の近現代史に対する理解である」という考えに、私は全く賛成である。そして、この林氏の本に対する期待を前の記事の余録に書いた。

 

しかし、林氏の言葉とこの動画の語りの中にある「現在の言論は、ユダヤ資本が米国や世界の支配を試みてきたという議論を一切無視している」というのは言い過ぎである。多くの本が、世界歴史と現代政治のユダヤ資本家の関与に触れている。
 

日露戦争でのヤコブ・シッフの話や、冒頭にある米国の外交問題評議会(CFR)とロスチャイルドの関係などは、例えば鬼塚英昭氏の「20世紀のファウスト」の第一章の冒頭にも書かれている。

 

それらを貶せる位に、林千勝氏の本が実証的かというとそうは言えないだろう。何故なら、この誇大広告的な宣伝動画でも、日露戦争のときに日露両国から公債を買ったユダヤ資本家が、最初から儲けが高い確率で約束されていたことのように話すが、そんな見通しなど欠片も解説されていない。
 

日本或いはロシアが敗戦で公債償還不能になった場合、その部分をどのように回収するのか、全体的な帳尻に関する記述が(結果だけでも良いのだが)全く話されていない。実際には、その公債は市場に放出され転売される。ユダヤ資本家の行ったことは、証券会社がソフトバンクの劣後債を売りつけるのと同じ類のことである。

 

この動画では、ユダヤ資本をまるで気味悪い悪魔のように話しているが、当時の日本にとってヤコブシフは恩人であった。高橋是清の努力もあって、ロンドンでは十分なお金を調達出来なかったのだが、十分な低利で外債を引き受けてくれたのである。この外債に関する研究は、二宮宮國という方により論文発表されている。https://appsv.main.teikyo-u.ac.jp/tosho/mnimura19.pdf

 

最初のセクションで書いたように、米国ユダヤ資本のお陰で、日本はロシアの植民地に成らなくて済んだ。そして日露戦争で勝利となった1905年、日本は南満州鉄道を米国鉄道王のハリマンと共同経営するという協定を結んだ。

 

ところが、ポーツマス条約からの帰路日本で大歓迎されると思った小村寿太郎に対して、日本の世論はロシアから賠償金が取れなかったことで非難轟々だったのである。それで萎縮した政府は、桂ハリマン協定を反故にした。日本の味方になってくれた英米と、その背後に居たユダヤ資本家に対して、日本は恩を仇で返したのである。(追補1参照)

(7月4日午前5:45、補足2を追加、更に動画での語りの内容をイタリックにした;

同日後円7時半、追補1追加、最終稿。)
 

補足:

 

1)現代の若い人たちは、金利6%がびっくりするほどの高利だと思うだろう。しかし、私の住宅ローンは最初7%ほどの高利であった。更に、「今となってはユダヤ人に一体いくら支払ったのか分からない位です」と云う。この「解らない位です」というのは、分からないのは当事者なのではなく、語り手なのだろう。これもインチキ語法である。

 

2)資本主義の論理とは、どんなことをやっても金が儲かれば良いという思想ではない筈である。それは、国家の下の資本主義という経済システムの論理であり、国家を超える無法者の論理ではない。法治主義も人権重視主義も捨て去るのなら、それは犯罪者の論理となる。

 

3)最近、youtubeの政治や歴史の動画を見ると、この大阪のDirect 出版の宣伝が必ずと言って良いほど入る。そして、戦後の米国による占領政策による日本の左傾化や歴史認識の欠落が警告するように主張される。それは何処かの国の日米の連携を剥がす戦略のように、私には見える。

 

追補:

1)何故日本は日露戦争を戦うことになったのか? 背後にロスチャイルドが居るという説がある。明治維新そのものも、香港の英国とその背後のユダヤ人(英国ロスチャイルド)が計画したという説が有力なので、そのあたりを「The Rothchild」はどのように記しているか興味がある。このブログ記事の目的は、宣伝用の動画があまりにもインチキを含むことの指摘であり、読んでいない「The Rothchild」を貶したわけではない。念の為追補とします。

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