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2022年1月29日土曜日

日銀の円安政策で今後も日本人は食っていけるのか?

日銀黒田総裁の円安政策は、日本の輸出企業の急場凌ぎには役立ったが、その後の日本経済の停滞脱却を邪魔しているのでは無いのか? 本来の企業努力をせずに、不採算の原因を放置し、新たな投資に向かわずに収益は溜め込み、伝統的人事からも脱却できずに来たのが、総体としての日本の低迷ではないのか?

201212月に野田佳彦から安倍晋三に首相が交代し、その経済政策の一環として、黒田東彦日銀総裁(20133月から)による大規模な金融緩和が行なわれた。デフレの日本経済を一応救ったのだが、「物価上昇率の目標2%」(円安誘導の口実)は、2022年現在まで達成できなかった。

 

確かに2010年以降、円高不況の中にあり貿易収支もほぼ一貫して赤字であった。

https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_balance-trade

 

製造業が外国企業に国内外で負ける様になると、収入の減った国民は益々節約して、デフレに苦しみうようになる。そこからの脱却には、企業は生産性向上や新規製品の開発等により、国際競争力をつけなければならない。

 

その為には、不採算部門の整理(補足1)、生産性向上の為の設備投資、新製品開発のための研究投資などがなければならない。それらは並行するもので、不採算部門の整理がなければ、その他の投資は出来ない。
 

不採算部門の整理には、余剰人員の解雇が必要だが、それには解雇された人たちの新しい職場への再就職が可能でなければならない。そこで日本の低い労働流動性が問題になる。つまり、日本の会社経営や労働慣行などの文化が、経済構造の改革をやりにくくしているのである。以上から、このデフレの問題は財政増加などのマクロ経済政策だけでは解決しない。(補足2)

 

一方、輸出で利益を得なければ、一定量の食糧、原材料、エネルギーなどの輸入が出来ない。デフレで給与も上がらないので、国民は消費において益々防衛的になる。不況に備えて貯蓄をする遺伝子を強く持っている日本人に、インフレを持ち込むことは至難である。これまで政府の財政支出で、帳尻を合わせてきたが、それも限界に近くなっていた。

 

国内だけで経済が回る国なら、企業の供給能力は通常減退することはほとんどないので、一時的な不況からの回復などの目的に限らず、必要な額だけ政府が紙幣(国債でも良い)を発行して使えば良いだろう。(MMT理論)このような財政出動による経済回復を主張する人に、元内閣参与の藤井聡氏と経済評論家の三橋貴明氏がいる。日本は、自国で経済は回らないので、通貨発行量増大による国内物価の上昇の他に、相当な円安からのインフレが重なる

 

食糧やエネルギーを輸入しなければ4−5000万人程度しか生活できない日本は、輸出産業を育て、その輸出で得た金でそれらを調達しなければならない。年間5兆円程度の食糧の輸入と20兆円程度のエネルギー源の輸入をしなければ、日本の政治と経済は維持できないので、これ以上の円安は非常に不利である。

 

因みに、竹田恒泰氏はテレビで屡々(先週の「そこまで言って委員会」でも)、日本のgdpに占める貿易収益は0.2%程度であり、日本の経済は貿易依存ではないと言ってきた。しかしそれは根本的に間違いであるのは、上の議論で明らかである。しかし、同席していた元経済産業省官僚で、内閣にも関係してきた石川和男氏は、これについて全く議論しなかった。(補足3)

 

これら日本のマスコミの間違った主張を好んで放送する体質と、日本の議論を忌避する文化は、共に日本病の中心的病原である。

 

 

2)円安地獄

 

日本の通貨は現在非常に弱くなっており、途上国であった国々に負けようとしている。その結果、日本は食糧の国際入札で中国に買い負けているという。これ以上の円安が進むと、日本人は満足に食えなくなるのだ。

 

日本の通貨は「最弱通貨」と呼ばれて久しい。ドル弱含みでも円がそれを上回るほどに弱い。日銀で言えば白川方明総裁時代(20082013年)の2000年代の円高(主に民主党政権)と2010年代の黒田東彦総裁時代(2013年~)の円安(いわゆるアベノミクス)でどちらが正しかったかは難しいところだが、緊縮財政と国債買い上げ(当初は金融緩和のはずだったのに……)による円安が現在の買い負けの一因であることは確かである。(下のnewsポストセブンの記事より引用)

https://news.yahoo.co.jp/articles/9d90b806b9f27fa6033160652cc84a1fd51526e2

 

冒頭の図にある通常の為替レートでは上記意見を理解には役立たない。何故なら、2000年からの20年間、対ドルレートは120円前後で変化していないからである。


しかし、この20年、米国の消費者物価は約50%増加している。それでも同じ対ドルレートだということは、実質的に円の価値が2/3になったということである。

(米国の物価=>https://ecodb.net/country/US/imf_cpi.html) 

 

このように他国の物価なども考慮した実質的な為替レートを実質実効為替レートという。日本円の実質実効為替レートの変化を下図(左)に示す。その右の図は、いくつかの国でのこの1年間の実質実効為替レートの変化である。

 

 

これを見れば、何故中国人が東京近郊のタワーマンションを買い漁り、インタビューした報道記者にその理由を「日本の不動産は安いから買うのです」と語る理由がわかるだろう。そして、上記Yahoo!ニュースにある食糧を買い負けする日本の実態が理解できるだろう。

 

20年以上続いているデフレ不況は、当初円高不況だったかもしれないが、2000年からは日本企業の国際競争力の減少が不況の原因だと言うことがわかるだろう。この点について、経済評論家の野口悠紀雄氏が以下の様に指摘する。

 

物価上昇率が低い日本では、自動的に円高になっていかなくてはいけない。ところが産業界の声に応えて政策当局が為替市場に介入して無理やり円安に抑えてきた。95年頃から実質実効為替レートが下がってきているのもそのためだ。

 

この問題は財政出動で解決できないのは自明である。内閣参与の藤井聡氏と経済評論家の野口悠紀雄氏が公の場で日本経済の問題点について議論すれば、1時間でどちらが正しいか明らかになる。日本の為には経済評論家を名乗る者は、その地位を賭けて議論すべきである。

 

既に上に書いたが、この議論の無い日本文化は、日本病の中心的病原である。https://times.abema.tv/articles/-/10012645

 

 

補足:

 

1)日産がルノーにより買収され、カルロス・ゴーン氏が日産の経営を立て直した。彼は国内の完成車工場3拠点を閉鎖するなどの大ナタを振るった。傘下部品メーカーの保有株を売却して「系列解体」を断行するなど、日本の文化に無い改革を行った。

 

2)経済評論家の三橋貴明氏や安倍内閣で内閣参与だった京大の藤井聡氏らが、まるで財政拡大で簡単にデフレ脱却ができるようなことを言ってきた。(https://president.jp/articles/-/46005?page=1)私は、その主張に非常に違和感を感じてきた。

因みに、労働流動性の改善の鍵は、同一労働同一賃金の実現である。

 

3)エネルギーの半分が民需だとしても、現在の為替レートで合計15兆円を輸出入や金融収支などで稼がなければ、日本人は生きていけないのが現実である。それには、輸出産業の国際競争力を維持し、円の価値を守らなければならないのである。テレビ番組「そこまで言って委員会」での「日本のGDPに占める貿易収支は、わずか0.2%であり、日本は貿易にほとんど依存していない」という竹田氏の意見は間違いだが、それより腹立たしいのは、それについて経済評論家の須田慎一郎氏が明確な反論をしなかったことと、上記元経済産業省の官僚が黙っていたことである。
(1/29/5:00 編集後、最終稿)

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