(特定秘密保護法については過去議論したことがあります。http://rcbyspinmanipulation.blogspot.jp/2013/12/blog-post_12.html をご覧下さい)
CBCテレビのサンデーモーニングを見た。そこで、沖縄返還交渉での密約についての話がでていた。その際に交わされた密約を、外務省女性事務官からの取材で得た毎日新聞の西山太吉記者が、社会党国会議員に漏洩した事件である。その件、女性事務官と西山記者が、国家公務員法違反で有罪になった。
この事件であるが、西山が情報目当てに既婚の外務省事務官に近づき酒を飲ませ泥酔させた上で性交渉を結び、その事実を武器にして密約の存在を入手したという。当時、その取材手法が西山記者有罪の根拠となり、市井の非難があつまった。しかし、密約の存在そのものについての審理は行なわれなかったという。この密約の存在を明らかにしたのが、当時外務省官僚で先日なくなった吉野文六氏(返還調印の年、1971年にアメリカ局長であったらしい:http://ja.wikipedia.org/wiki/吉野文六)である。
取材に応じた孫崎亨氏は、このような密約は他にもたくさんあると語っていた。また、パネラー諸氏は、このような密約に関する資料も後世に残し、一定期間後に歴史資料として公開すべきであること、更に、今後は特定保護法の存在で取材が一層困難になるという意見で一致していた。暗闇の中に日本国が入り込むことを危惧しているような雰囲気だった。また、ゲストの田中秀征氏は、「米国では一定期間後には外交資料も完全に公開しており、民主主義のレベルが日本とは異なる」とコメントしていた。
ただ、この密約の評価については、未だに聞いたことが無い。この密約が、沖縄が日本に返還されるにあたって、決定的役割を果たした筈である。この種の密約とそれを用いて沖縄返還を実現した佐藤内閣の外交、それを違法な手段で得て野党議員に漏洩した記者の行いの評価は、沖縄返還という成果(プラスの成果)及びそれらのプロセスが今後の日本の政治形態に及ぼす影響(マイナスの成果)などを、総合して判断しなければならない。それは、西山記者の司法の判断とは別の話である。
一般市民には、“民主主義政治において、密約を用いて政治的解決をするのはおかしい。或いは、密約は明らかにされるべきである。”という原理主義的な姿勢が分り易い。今回のサンデーモーニングでも、論理的に明確な発言は全てその原理主義の立場でなされていた。田中秀征氏の米国の民主主義を日本とはレベルの違うものと持ち上げる発言も、結局は上記原理主義をより正しい方向とする趣旨でなされている。
私は、もう少し現実的視点に立つべきだと思う。隣国の政治やその隣国(つまり日本など)との外交など、つまり日本の外交環境は、嘘と密約で満ちていると思う。そのなかで、日本政府だけを密約を用いたことや、情報公開を行なわなかったことで攻撃するのは間違っているかもしれないのだ。田中氏が高いレベルの民主主義の国であると評価することに異論は無いが、それは、米国の世界一と言える情報収集能力や軍事的能力、それに裏打ちされた政治能力があるから出来ることなのではないか。つまり、米国の情報公開は世界一の軍事的政治的能力の結果であり、高度な民主主義文化だけがそれを可能にしているのではないと思う。
由らしむべし知らしむべからず(よらしむべししらしむべからず)という言葉がある様に、損をしないで成果を出すことが政治家として大切なことかと思う。政治で大切なのは、“国民を飢えさせないことと、国民の自由と命を大切にすること”であり(注1)、情報公開はそれよりも低位にあることだと思う。一般国民に評価できないことで、しかも重要な交渉の積み重ねをぶちこわすような秘密漏洩は、罰せられて当然である。ただし、ルールとして一定期間後に全て公開することは無理だろうが、非公開資料も全て保存することが大事だと思う。
注釈:
1)番組の中で、式典かなにかで沖縄を訪問した俳優の菅原文太氏が、「政治で大事なことは、1。国民を飢えさせないこと;2。戦争を絶対しないこと、の二つである」と発言したことが紹介されていた。その一部変更したものである。
何もかも開けっぴろげで、国際間の交渉は出来ない。
返信削除衆愚政治では国は滅びる。
ご存じかも知れないが、
『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』
沖縄返還・日米首脳交渉「秘密合意議事録」とは何か?
若泉敬 (文藝春秋社 1994)
を読んでいる。まだ惚けていないつもりであるが、読み通す事は難事である。
Q−Kazan氏のコメントと関連して補足:
返信削除政府が秘密を持っても国内的に許される条件が一つある。それは、政府に国民の信頼があることである。
戦後の自民党政治には、その点に多いに疑問が残る。