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2015年5月31日日曜日

安保法制の議論:今週の時事放談の感想

今朝のゲストは自民党の高村正彦氏と元民主党の藤井裕久氏である。放送内容は、安保法制に関する議論であった。藤井氏は集団的自衛権行使に反対であり、国際問題があれば時間はかかるが、国連を中心に解決すべきだと主張する。高村氏は国連で解決出来ればよいが、安保理事会の常任理事国に拒否権があるので、当事国が常任理事国であれば国連は無力であると主張する。

明確には言えないだろうが、中国が絡んだ紛争を考えている以上、藤井氏の考えは机上の空論に聞こえる。藤井氏は日米同盟だけでなく同盟全体に関して否定的である。その理由として、セルビアとオーストリアの戦闘から、同盟関係を導火線にして第一次世界大戦となったことをあげている。

しかし、その考え方は間違いである。戦争でも化学反応でも、メカニズムとエネルギー(注1)の両方から考える必要があることを、文系秀才の藤井氏は判っていない。戦争の防止は、メカニズムを無くすることでは出来ない。戦争に向かうエネルギーの蓄積がある限り、遅かれ早かれ戦争になる。つまり、オーストリアの皇太子がサラエボで暗殺されなくても、別の火花がそのエネルギーを戦争という形で解放しただろう。

また、藤井氏は仮想敵国を考えることは危険であると指摘している。同盟関係は仮想敵国を想定して結ばれる場合が多いだろうが、仮想敵国はあくまで仮想なのだ。それを想定しては危険であるというのは、国家は戦略を立ててはならないという議論に等しい。日本が第二次大戦であのような悲惨な敗戦に至ったのは、戦略が十分で無かったからであるとの議論が大勢を占めていると思う(注2)。藤井氏はどう考えているのだろう。藤井氏や多くの野党の議論は、突詰めれば非武装中立論に至る。「丸腰の人間に襲いかかる悪人は居るだろうか?居る筈はない。」という考えである。何と言うナイーブな人たちだろうか。

藤井氏は、新たな安保法制の下では自衛官のリスクが増加すると指摘している。しかし、自衛軍(自衛隊を英訳すれば、self-defense forceとなり、それを再度和訳すれば自衛軍となる)なら、出動する事態が生じれば、犠牲が増えることを誰も否定できない。そして、高村氏が指摘するように、そのような事態が備えを持ったことで防止できれば、国民全体のリスクが大きく減少すると反論する(注3)。

中国南シナ海埋め立てと武器導入とそれに対する米国の警告など、東アジア及び南アジアは危険が近づきつつある。それに対して、米国が“知らんぷり”をすることは原理的に可能である。その延長上にあるのは、尖閣諸島だけでなく沖縄や奄美諸島の中国による占領だろう。現政権が考えているのは、日本が巻き込まれることではなく、米国を巻き込むことだろう。

藤井氏は、中国の巨大化には同意するものの、孔子などを産んだ偉大な国として、中国を見ている。しかし、中国が共産党一党独裁の国であること、その中心部分が権力抗争と腐敗にまみれていること、などへの言及は今回の議論では一切なかった。確かに高村氏が指摘するように、中国は“この1年で日本と上手くやりたいという雰囲気が高まっている”のは事実だろう。しかし、微笑外交と脅迫外交の使い分けは、覇権国家の常識である。私は、中国が日本に対してBig Stickを振りかざさない様に米国との関係を密にすべきだと思う。http://ja.wikipedia.org/wiki/棍棒外交

注釈:
1)このエネルギーは化学反応として解放可能なエネルギーと言う意味で、フリーエネルギーと呼ぶ。化学反応で解放されるエネルギーは、フリーエネルギーの減少分である。(P.W. Atkins著の物理化学参照)この化学反応を戦争に置き換えたのが、上記議論である。
2)クラウゼビッツの第一編に戦争の政治的行為としての本質が書かれている。以前のブログにも書いたが、日本は大学でクラウゼビッツのクの字にも触れない世界でただ一つの主要国だそうだ。(伊藤憲一著、新・戦争論17ペイジ)
3)この論理は、クラウゼビッツの「武力による決定の担保の原理」が根拠だと思う。伊藤憲一著の新・戦争論に、その説明が書かれている:武力を行使してみればどうなるかという結果が、予め相当程度確実に交戦者双方に見通される場合、つまり武力による決定の担保がある場合には、敢えて武力を行使するまでもなく、政治的な解決が出来る筈である。
<理系人間の素人の意見ですので、反論等歓迎します。>

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