昨日は憲法記念日であった。そこでネットに現れている憲法改正の是非についての議論を2、3取り上げ考察してみた。
1)東京都公立学校教職員組合のブログでは、99歳の元ジャーナリスト武野武治さんと102歳の日野原重明さんの護憲の言葉、それぞれ「まずやらなければならないのは、近隣諸国と仲良くすること」と「いのちを守る憲法をいつまでもだいじにしてほしい」を引用して、護憲を訴えている。http://blog.goo.ne.jp/ttutokyo/e/00cd006afc8f41c6810ce80a75caf095
何故この教職員組合は、高齢の二人の意見を引用して護憲を訴えるのか? 堂々と自分たちの考えを持ち出して、主張すべきである。
武野さんには、強大な軍事をもつ近隣国にその言葉を伝えて欲しいものである。南沙諸島や西沙諸島に軍事基地をつくり、日本の将来のシーレーン確保を困難にする危険性などご存知ないはずである。また、今の憲法は確かに何人かの自衛官をベトナム戦争などで救っただろう。それは目に見えたプラスの面である。しかし、現憲法の考えで外交継続することは、日本が将来中国の支配下にはいり、チベットやウイグルのようになるだろう。今までは目に見えなかったこのような危険性については、日野原先生は考えておられないのだろう。
(中国の文化について、林建良氏の講演を見てほしい。https://www.youtube.com/watch?v=lXA9NpBqty8)
一方、同じく102歳の元法務大臣の奥野誠亮さんは、「GHQがつくった憲法の前文には『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼し』とある。今の世界情勢でこのような表現は笑いものだ。軍隊や非常事態規定、環境権は必要だ」と指摘。「現憲法の改正ではなく、内閣が新しい憲法案を作り、国会の多数決を経て国民投票に付せばいい」と新憲法の制定を主張されている。
http://www.sankei.com/politics/news/151120/plt1511200011-n1.html
2)憲法学者の意見もふた通りある。NHKのサイトでは、両方の意見を引用している。http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160502/k10010506971000.html
憲法改正に向けた議論を進めるべきだという立場の九州大学の井上武史准教授は、「憲法が70年間変わっていないことは、その間の社会の変化を憲法がまったく捉えていないということで、改正の必要性を常に考える必要があると思う」と発言されている。現憲法に対する考え方は、奥野元法務大臣のものとほぼ等しい。
今は憲法を変えるべきではないという立場の東京大学の石川健治教授は、「今回の調査結果は、憲法を巡る議論の盛り上がりのなかで憲法を改正することへの危機感や批判意識が高まっていることを示していると思う。日本がこの70年間培ってきた立憲主義を損なうことになるのではないかということに、多くの人が気づき始めたのだと思う」と話されている。ちなみに、立憲主義とは「政府の統治を憲法に基づき行う原理で、政府の権威や合法性が憲法の制限下に置かれていることに依拠するという考え方」である。
東大石川教授の憲法学者としての意見は全く理解に苦しむ。この方は、日本がこの70年間立憲主義を培ってきたという。しかし、日本政府は、日本国憲法制定後に警察予備隊を創設し(1950)、保安隊と改組し(1952)、その後それを拡充して自衛隊とした(1954)。国際状況の厳しさが増すに従って、弾道ミサイル防衛システム、そうりゅう型潜水艦、ステルス戦闘機などを保持することなど、自衛力つまり軍事力の増強を行ってきた。そして、敵が攻めてくれば、日本国政府は自衛隊という軍隊(憲法9条がその保持を明確に否定している)を用いて戦わざるを得ない。
この立憲主義を損なっている現状を解消して、法治国家としての体裁を整えたいからこそ、憲法を改正すべきと多くの政治家は考えているのである。日本がこの70年間立憲主義を培ってきたと主張される根拠を論理的に説明すべきである。
日本国憲法(補足1)は明確に軍の保持を禁じている。自衛隊は、英語でself defense forceと訳され、その翻訳を当然のものとして日本政府は受け入れている。それでも政府は、自衛隊は憲法がその保持を禁止している軍隊でないとして、領土防衛のためにその予算を計上しているのである。石川教授は、この政府見解が全く正しく、自衛隊は軍隊ではないと主張するのか?
昨日BSフジのプライムニュースで元文部大臣の下村議員が、防衛は国家の基本的権利であり、そのための戦力は憲法が保持を禁じている軍隊ではないと言っていた。そのような苦しい説明ではなく、憲法学者らしく正確な日本語で「日本は70年間立憲主義を培ってきた」旨の論理展開をおこなってもらいたい。
補足:
1)第9条:日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 2: 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
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