伊藤貫氏の下に引用の動画は、米国でのトランプ大統領という異色の大統領が誕生することになった背景について、議論することを目的としている。https://www.youtube.com/watch?v=Y_oD0ZWfWz4&t=4225s
私は既に、この動画の内容の要約と感想を記事として掲載している(11月13日の記事:崩壊する米国と道に迷う世界)。在米ブロガーのchuka氏が、この動画に関するコメントを、私の解釈に対する感想を含めて、掲載した。https://ameblo.jp/chuka123/entry-12548210120.html
私にとっては意外に思う内容もあるので、ここにこの動画のエッセンスを再掲し、私の解釈への追加、及び上記コメント記事への感想を書くことにした。今回更に、社会と個人の関係についても、少し考えてみた。素人の考えなので、自由に議論してほしい。
1)前回議論の内容の要約と追加:
伊藤氏は動画で、米国は近い将来、(a)貧富の差の拡大と富裕層による政治支配の進行、及び、(b)白人人口の減少とヒスパニックや黒人人口の増加により生じる歪の拡大、の二つの大きな変化により、米国社会が不安定化すると指摘した。(補足1)
上記(a)の原因は、米国がリーダーとなってネオリベラリズム的政策を進めることで、世界経済のグローバル化を進めたことにある。そのグローバル経済の中心にある米国金融資本に利用され(そして、逆に、米国金融資本を利用し)、グローバル化経済の現場となることで豊かになったのが、当時発展途上国の中国である。そして、切り捨てられ貧しくなったのが、米国内の白人ブルーカラーである。
その発展途上国の代表である中国が、米国副大統領により(昨年10月のハドソン研究所での講演において)、米国のライバルと確認されるまで巨大になった。また、米国に足場を置いてきた金融資本も大きくなるに従って、米国や米国民のための存在ではなくなった。その両方とも、現在の米国にとっては大きな問題となっている。
尚、伊藤氏の上記議論の延長上に意識されるのが、米国内で予測される政治的混乱とこれまで米国の一極支配だった世界が多極化することである。米国の世界経済におけるシェアの減少、その一方での中国のシェア増加により、米中の二極構造になるという予測である。
以下、近い将来の世界に対する私の考えを示す。其々の覇権域をサブドメインに分けると、核保有国であるロシア、欧州、インドなども地域的な極を形成するかもしれない。その際、米国とオセアニアとインド、さらに東南アジアの数カ国は、インド太平洋構想により巨大な覇権のベルトとして、更に、米国と欧州はNATOと言う覇権のベルトとして存在するだろう。それに加えて、世界には2,3の独立国家、パキスタン、イスラエルなどが、存在するだろう。
しかし残念ながら、伊藤貫氏の予測によれば、日本は東北アジアにおいて孤立し、10年程度の短い期間のうちに中国覇権域の中に包含される。現在の日本の国防体制と国民の国防意識から考えて、それは90%程度確実だと言う予測である。
日露同盟の可能性だが、米国がロシアと同盟関係になれば、考えられると思う。そしてそれが、中国共産党政権の崩壊の唯一のシナリオの最初の部分だと思う。
以上は全くの素人の予測である。しかし、米国のインド太平洋構想の中に、日本が入らない可能性を独自の考えとして、今年の4月の記事に書き予言している。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12466516823.html そして、その記事の中で、安倍総理の親中姿勢の原因だろうと書いた。
この米国のインド太平洋地域の戦略構想は、今年6月、米国で決定されたという。この事実とその背景については、最新のチャネル桜の「日本核武装論」で矢野義昭氏が詳細に言及している。(2時間43分以降、50分までの間に語られている:https://www.youtube.com/watch?v=l3WVHGBNC68)
ただ、安倍総理の姿勢変化の理由については、チャネル桜の出演者は気がついていない。(勿論、私の考えが間違っている可能性もある。)
2)Chuka氏のブログに書かれた伊藤貫氏の動画に対する感想について
Chuka氏は、①伊藤貫氏の主張(a)は、2016年の大統領選挙における民主党候補の座を争ったサンダース氏とほぼ同じであること;そして、②社会主義者のサンダースは、スウェーデン型の福祉国家を目指していると書いている。更に、スウェーデンでの一般市民の経済生活について紹介し、米国市民はスウェーデン型の政策に馴染まないだろう、と指摘した。
この最初の指摘、バーニー・サンダースを過去一度支持したことを理由に、伊藤貫氏が社会主義に共鳴する人間の様に評価するのは、間違いだと思う。米国の経済システムには、補正が必要である。その補正項として、バーニー・サンダースの政策を支持したのだろう。つまり、従来の米国の政治の考え方に対するアンチテーゼとして、サンダースを評価したに過ぎないと思う。
伊藤貫氏の政治思想は、一昨年に自殺した故西部邁氏の思想に近い。メインストリームに無いのは事実だが、それはメインストリームが米国に与えられた幼稚な民主主義を継承しているからであり、本来は保守本流にあるべき考え方である。
次に、②のスウェーデン型社会主義に対し、収入の60%を税金で支払った上に、物価が非常に高いスウェーデンの政治体制には、米国人は親和的でありえないというChuka氏の指摘は、一方的な様に感じる。それは、トランプ政権の誕生そのものが証明していると思う。
米国人の考え方はともかくとして、このスウェーデンの物価や租税負担率の話について、少し調べたので書いておく。
上図は、各国の国民負担率(租税負担率と社会保障負担率の合計;2016年のデータ)をグラフにしたものである。それは、米国では33.1%、日本で42.8%、スウェーデンで58.8%である。驚くのは、フランス、ベルギー、デンマーク、ベルギー、オーストリア、イタリアなどは、これらの値より高いという点である。北欧型社会主義と人々は言うが、ヨーロッパ諸国の国民負担と、実はそれほどの大差がある訳ではないのである。
また、Chuka氏はスウェーデンの物価高を住みにくい感覚として上げているが、これも一方的だと思う。つまり、物価の国際比較はなかなか難しいという点を看過している可能性があると思う。品目間での物価のばらつきは、国によってまちまちであること、そして、それらの実際の数値は、為替によって換算されていること、の2点に注意が必要だと思う。
一般に、ある国からの輸出品は、自国製品が国際的に安価であるから輸出されるのである。逆に、輸入品は、その品の国内価格が国際的にみて高価であるから輸入されるのである。従って、スウェーデンでの食品などの物価高は、それらがスウェーデンの輸入品であることを指摘したに過ぎない。(追加:日本のエネルギー高と似ている)
更に、伊藤貫氏がキャピタル・ゲインに対する課税を31%から20%に下げたクリントンをボロクソに貶していると指摘しているが、私にはそのような発言には聞こえなかった。批判したが、決してボロクソではない。ボロクソに批判したクリントンとは、奥さんのヒラリー・クリントンの方である。
ビル・クリントンの経済政策は、日本でも評判が高く、新書版のクリントンを褒め称える本が出ている位である。従って、キャピタル・ゲイン減税も、その経済政策全体の中で論ずべきであり、個別に取り出して批判するのは、Chuka氏の指摘のとおり、間違いかもしれない。
3)スウェーデン型社会主義の利点と米国の自由主義の利点
米国は、いろいろなトラブルはあるものの、多民族が国家を形成して、世界一の経済力と軍事力を誇っている。これは、私だけでなく、世界中の敬意を集めていることは間違いない。その成功の背景として、科学研究に始まって、企業型研究、新しい経営手法、新規創業など、あらゆる場面で、個人の自由な思考とエネルギーが発揮され集積される社会環境にある。
それは、西欧合理主義の産物であり、東アジアの人治国家的な閉塞社会では考えられない社会である。ただ、この合理主義だけを原理とした政治では、こぼれ落ちる人間が多い。デジタル技術やAIの進展で、益々こぼれ落ちる人間の割合が多くなっているのが、先進国アメリカの現状だろう。そこで、社会主義的方法が持ち込まれなければならないのだと思う。
私の想像だが、伊藤貫氏はスウェーデン型の政治経済を将来の人類のために、より良い選択肢と考えた可能性がある。スウェーデンは、上記社会主義的政策にも係わらず、自動車、発電、機械などの国際競争力を持つ産業を育成することに成功している。それは、ソ連や嘗ての中国型の社会主義では不可能なことである。
スウェーデンなど北欧諸国は、思想と行動の自由をしっかりと確保した国家であり、同時に「ゆりかごから墓場まで」の社会主義的政策を持つ国である。ヒラリー・クリントンと民主党の大統領候補の席を争った、サンダース上院議員もそのような考えだとしたら、それは真当な考え方に入るのではないだろうか。
伊藤貫氏は講演の中で、大企業経営者の給与についての日米の間の差について述べている。以下記憶を頼りに引用するのだが、日本の大企業の社長(CEO)の給与は、たかだか従業員の平均給与の20−50倍程度(高々 2−3億円)である。しかし、米国の大企業のCEOの給与は、一桁上である。日本円で、数10億円もある。更に、米国の大手金融会社のCEOの場合は、更に一桁上である。(補足2)
この米国での社会から受け取る給与の差は、正常な人間社会の姿だろうか? 決してそうではないと私は思う。下の図は、幾つかの国での大企業CEOの給与比較を示している。日本が低い点で、米国は高い点でともに抜群なようである。日本は既に社会主義の中にあると考えた方が良いのかもしれない。
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20190624.html より引用
4)社会と個人の関係:
ある国の政府、会社、協会、法人、個人は、全体として一つの社会を為す。個人以外の社会の要素は、全ての個人のために存在し、全ての個人の共有機関である。(補足3)この社会要素(特に国家や会社)を共有する感覚は、社会或いは国家へ、各個人における協力の意思形成の上で基礎となる。
一般に東アジア諸国では、その国家への協力の意思は少ない。国家は、国民から収奪する機関だと感じる人が多い。(補足4)
政府は、その社会要素を共有する感覚が、各個人に醸成されるような社会を建設する様、努力しなくてはならない。つまり、その協力関係を破壊するような、一部の個人に対する高額な給与は、そのような社会にふさわしくない。そのような道徳的感覚が、個人の中に存在しなければならない。
高額給与の大部分を租税の形で吸収するのは、健全な社会のあり方ではない。租税で取り上げれば、その能力抜群の個人を社会は失うことになるからである。以上のことを論理的に展開できないのは残念だが、それの様な社会が目指すべき方向であると私は思う。ましてや、特定の個人に集中した給与が、Super PAC(political action committee)のような政治献金機関に無制限に流れて、政策決定に影響するシステムは、民主主義の原則にも反すると思う。
(午後4:00全面的な編集;午後6:00語句修正数カ所あり)
補足:
1)トランプ大統領は、民主党の弾劾はクーデターの企みであると非難した。https://www.afpbb.com/articles/-/3247564
2)ソフトバンクは日本の投資会社である。その創業者孫正義氏に次期社長として期待されたインド人ニケシュ・アローラ氏は、孫氏と意見が合わず結局半年で退社した。その半年での給与合計は200億円程度だった。普通の感覚では、殺意を感じる数字である。何故なら、死亡保険或いは死亡保障金としてでも、普通の人間が受け取る金は、数億円を超えることはないからである。
3)ある個人が会社を創業したとしても、その会社は全ての個人(社会)の共有である。つまり、その個人は、公共の福祉向上を実現するために、その会社を経営する義務がある。その社会への貢献は、平均より大きいので、社会からより大きな恩恵(つまり、その人の給与や会社から受ける配当など)をうける。理由は、その個人が会社を経営する素地は、全ての個人及びその祖先らが貢献した国家が用意しているからである。
4)2,3の大国では、富を得たものは母国を飛び出して、米国などに移住する人が多い。その様な国では、国民のほとんどは、国家をこのような収奪機関と考えている可能性が高い。途上国にあるそのような国を、短時間で先進国並の経済力をもったらどうなるか? グローバリスト達はその問いに答えることのない、利己主義者だろう。
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