6月7日、サンフランシスコの有権者は、刑事司法改革における国内で最も先駆的な実験の1つに終止符を打った。現金保釈を廃止し、刑務所に送られる人々の数を減らすために働いた地区検事のChesa Boudin氏をリコールしたのである。
このニュースは日本ではあまり報じられていないが、香港系のyoutube動画「役情最前線」で、今年の米国や中国等での重要な選挙に関する話の中で解説されていた。この犯罪者減らしの話は以前にも聞いた記憶があるが、あまりにも異常であり、真偽は明白ではないとして放置してきた。https://www.youtube.com/watch?v=9TFrzgf5RQg
この動画によると、Chesa Boudin氏は、2019年の選挙では50.8%の得票率で当選したが、今回60%程の票で、リコールされることになった。地区検事が選挙で選ばれるというのは、日本では考えられないが、他の地区での結果などもネットに公表されており事実だろう。(補足1)
サンフランシスコ地区検察の方針は、HPはその理想主義的方針の考え方が記載されている:https://www.sfdistrictattorney.org/about-us/
Chesa Boudin地区検事はこの2年間の在任中に、極端な実験とも言うべき検察改革を行った。主なものは、①Cash Bail(現金保釈制度;補足2)の廃止、②”生活の質が低いことが原因の犯罪”は起訴しないこと(補足3)など。その左翼的な改革は、結果的に強盗などの犯罪増加の原因となった。
②の「生活の質が原因の犯罪」は分かりにくいが、強奪や強盗でも950ドル以下のものはその範疇に入るという。つまり、スーパーで900ドル程度の品物を万引きしても、罪には問われないのである。全く信じられないという人が殆どだろうが、それは真実である。次の動画がそれを証明している。https://www.youtube.com/watch?v=2n10KfB1zPs
民主党左派の極端な思想を背景にした運動として、他にもシアトルでのBLM運動の延長上での解放区の設営があった。この解放国は民主党の市長により黙認されていたが、一ケ月ほどして多発する犯罪で敢え無く店じまいとなった。いずれも、単純な理想論に走った結果であり、失敗に終わるのは当然である。https://diamond.jp/articles/-/247423
民主党左派は、暴力共産革命やアナーキズムを主張する人たちも含む。かれらの政策が実現されても、多くの悲劇とともに失敗に終わるのが必至である。そしてこの共産主義的理想主義が、米国の政治だけでなく、法曹界にも影響を及ぼしていることが分かる。「生活の質が原因の犯罪は罰しない」というBoudin検事の方針も、共産主義的理想論に基づくだろう。
人は全て平等で、現代文明の恩恵を等しく受けるべきである。ある人が非常に裕福であり、別の人は非常に劣った生活しかできない場合、後者は生活苦故に窃盗などの犯罪に走る可能性が高い。それを罰するのは、本質的に不公平である。
この考え方は、ある程度説得力を持つ。しかし、この検察の方針では、社会を維持する基本的なルールが崩壊し、その被害は全ての人に及ぶ。そして、人の性格や価値観には分布があるので、生活苦など主観的な感覚は社会のルールに持ち込めない。それらのことを意図的に見落としている。
その方針は、いったい何に由来するのか? 民族的怨念によるのか、Boudin氏の偏った思考癖によるのか分からない。異常な背景を持つ非常に優秀な頭脳は、突飛な理想論で一般人を不幸にするのだろう。「役情最前線」の動画では、この地区検事が生まれ育った環境などを紹介している。
2)Chesa Boudin氏の略歴から地区検事当選までの経緯
リコールされた地区検事の略歴を知ることは、個人攻撃に堕することがなければ、このような思想の背景などを知る上で有用だと思う。それは、米国という社会の層の厚さを学ぶことにもなると思う。
Chesa Boudin氏の両親は、極左毛沢東主義の”Weather Underground”(日本語サイトにはウェザーマンとして紹介されている)の運動家であった。Weather Underground はミシガン大学におけるベトナム反戦運動の学生組織から生まれた。
この極左組織は、1970年、爆弾を製造している際に爆発事故を起こし、FBIの捜査を受けた。メンバーのかなりが逮捕され、結局1970年代後半に解散することになった。そこで、彼らの一部は別の極左グループ「5月19日」を創ってそこに移った。
Chesa Boudinの両親も、その中で左翼暴力革命家としての活動を続けた。因みに、5月19日はベトナム民主共和国の初代主席ホーチミンの誕生日である。https://en.wikipedia.org/wiki/May_19th_Communist_Organization
彼らは、1981年10月20日、現金輸送車を襲撃し160万ドルを奪う事件の犯人グループとして逮捕された。Boudin検事の父親が75年、母親が20年の禁固刑を受け収監された。生後14ケ月のChesa Boudinは、Weather Underground の創設者であるBill Hyersの下で養育された。https://en.wikipedia.org/wiki/Bill_Ayers
母親のKathy Boudinは刑務所で多くの論文と何冊かの本を書き、収監23年後に出所し、コロンビア大学の法科大学院(Law School)で教鞭を執った。Boudin家は著名なユダヤ人大家族であり、多くの裁判官、弁護士、共産主義活動家などを輩出している。
Chesa Boudin氏は、2011年Yale 大学法科大学院で博士号取得、サンフランシスコ公設弁護士事務所で博士研究員として働き、その後プロとしての仕事をする。
博士課程の時代には、南米ベネズエラのチャベス大統領のオフィスで通訳を行うなどの活動を経験している。米国の社会主義者らは、南米の社会主義者や共産主義者と友好的なようだ。
2015年にはサンフランシスコ公設弁護士事務所の次席公設弁護士としてフルタイムで働く。そこで、保釈金の設定が、容疑者の支払い能力を十分考慮していないとして、カリフォルニアの保釈制度は憲法に反するという議論を始めた。
2019年の選挙で、暫定的に地区検事だった対立候補を破った。Boudin氏は、現金保釈の排除、不法な有罪判決を再評価するためのユニットの設立、移民税関執行(ICE)の支援拒否などを実行し収監者を減少させると、選挙キャンペーンで主張し当選した。
サンフランシスコ警察官協会などはBoudinを落選させるべく活動したが失敗した。当時のWilliam Barr連邦司法長官も、警察を弱体化させ、犯罪者を野放しにして公共の安全を危険にさらすと、Boudin氏と彼と親しい地区検事たちを非難した。
尚、Chesa Boudin氏の父親は、収監中のニューヨーク重罪刑務所で40年経過したとき、Boudin検事の申請を受け入れたクオモ州知事により保釈された。クオモ知事は、新型コロナの流行もあり人道的見地から辞任直前に保釈を許可した。クオモ知事のセクハラ疑惑(これは有名になった)は、民主党系が仕掛けたことだろうが、ぎりぎりの所で決断したのだろう。
3)米国極左の運動
役情最前線の動画では、米国左翼のCritical Race Theory (CRT;批判的人種論)の原点にあると思われる思想がWeather Undergroundの思想との関連で紹介されている(7分あたり)。これについて一言書いておきたい。
このCRTでは白人には原罪があるとし、その根拠を以下のように考えているようだ:
白人たちは白人至上主義(有色人種との差別化)の恩恵を受けている。全ての人種は平等であるべきだから、白人たちは生まれながらに(その時代を共有した黒人たちに対する)犯罪歴を持っていることになる。彼らはそれを考慮し省みない限り、罪を犯していることになる。
この思想は、米国における犯罪率、収監率、平均所得などに人種間で大きな差があることを足場にして、貧しい黒人側の思想として考え出されたのだろう。この人種間の社会的経済的格差に対する黒人やヒスパニックらの苛立ちが、CRT、キャンセルカルチャー、BLM運動などを産み、左翼運動の活動エネルギーになっている。
従って、BLM運動のBlack Lives Matter というフレーズは、「黒人の命は大切だ」であり、「黒人の命も白人や黄色人種の命同様大切だ」という意味ではない。つまり、批判的人種論の逆差別思想と共通の思考が背景にある。
この逆差別を要求するCRTやBLMの膨大なエネルギーを何らかの形で解消しなければ、米国の政治的安定は無い。そして、このことは世界の安定にも重大な影響を持つ。このエネルギーに由来する左翼運動を制御できるのは、この左翼運動の原点に存在するユダヤ人たちかもしれない。(補足4)その一人としてあらわれたのが、Chesa Boudinサンフランシスコ地区検事だったのだろう。
仮にトランプが次期大統領選で勝ったとした場合、このエネルギーは一層激しく燃え上がるだろう。逆にトランプが民主党の選挙介入などで負けたとした場合、WASPを代表とする側の反発は尋常ではない筈である。平和な世界はあと2-3年しかないかもしれない。ウクライナ周辺は既に混乱しているが、日本周辺も同様になる可能性がある。
(短縮及び最終編集27日、7:00)
補足:
1)地区検事に立候補するにはその州の司法試験(2月と7月)合格者でなくてはならない。更に、道徳性、犯罪歴、健康などの良好なことなどが地区の司法管轄者によりテストされる。通常は、地区検事補になった人から選ばれるようだ。https://www.indeed.com/career-advice/finding-a-job/how-to-become-district-attorney
このサンフランシスコ地区検事になった人として、現在の副大統領カマラハリスも居る。現在サクラメントの地区検事の選挙が進行中で、その得票数が数万のレベルであるので、選挙民としては議員などの選挙と同様だろう。https://www.kcra.com/article/2022-california-primary-election-sacramento-county-district-attorney/40181025#
2)重罪でなく再犯の可能性がなければ、裁判まで一定の保釈金を受け取って保釈する制度。ここで「現金保釈の廃止」が意味するのは、収監のまま放置することではなく、収監しないことつまり処罰しないことを意味する。①②から、軽微な犯罪は逮捕後直ちに釈放されるので、警察は逮捕すらしないことになる。それが犯罪率の激増となり、今回のリコールに繋がったのだろう。
3)米国の人口は世界人口の約5%であるが、世界の刑務所収監者の約20%を米国が占める。この大量収監の問題を根本から解決しようとBoudin地区検事は考えた。「犯罪の根本原因としてこの社会に差別があるからだ」という左翼思想を信じるBoudin検事は、相当な犯罪でも目をつむる(起訴しない)ことにしたのである。極左以外の人達は、社会を崩壊させることになると批判するのは当然である。民主党支持者のユダヤ人法律家Boudin氏に、それが分からない筈はない。私の想像だが、「犯罪という結果には原因がある。それが明確に表面に出るようにしただけだ。次に、その原因を解消するのは政治家の役割だ」とBoudin検事は答えるのではないだろうか。
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