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2022年6月5日日曜日

核シェアリングは危険な選択である

台湾の林建良氏が自分の国際政治講座へ招待するために送ったメールに、ある核攻撃のシミュレーションが紹介されていた。それは次の質問から始まる。

Q: もしロシアがNATO加盟国に核ミサイルを撃ち込んだら、アメリカはどうするのか?

1.ロシアを核で攻撃する;2.ロシアに経済制裁で報復する;3.何もしない;
などなど。

実は、もしこうなったらどうするか?という議論が、既に米国で何度もされていると、米ジャーナリストの裏調査で明らかになりました。・・・・

さて、このシミュレーションはどうなったでしょうか。その結果は:

A: ベラルーシに核を落とす。
https://in.taiwanvoice.jp/futakaku_release?cap=hs4

そして林建良氏は日本の考えるべき隣国の核の脅威とシミュレーションすべきテーマを上げている;
 
もし、日本に核ミサイルが撃ち込まれたのなら:
・米国はどうするでしょうか? ・日本はどうするでしょうか? ・日本ができることは?
・日本国民はどう備えるべきか?

私は、林建良さんの講座を聴講する経済的余裕がないので、その問題設定のみをタダで使わせてもらい、答えは自分で考え出すことにした。


2)米国との核シェアリングは危険な選択である理由

このシミュレーション:ロシアによるNATO加盟国への核攻撃と、米国からのベラルーシへの核ミサイルによる反撃は、ボクシングで言えばジャブの応酬レベルである。当事国であるそのNATO加盟国やベラルーシにとっては悲劇だが、米露両国にとっては、相手の意思を測るための最初の核応酬である。

そこで米国の態度を「強硬」と見て、ロシアは核攻撃をしなくなるかもしれない。今回のケースで考えれば、ロシアが一歩引いた形での和平案に合意する旨が、仲介国により米国に伝達される可能性があると思う。

ここで米国のベラルーシへの核攻撃に、米国の「抑制」をロシアが感じとった場合、次の核ミサイルの標的が日本になる可能性がある。それは、ロシアは全面的な核戦争を避けたい訳ではないという強硬な姿勢のシグナルを米国に送るための核攻撃である。同じところへ核攻撃を繰り返すのは、メッセージ性が欠けるからである。

それを見て、日本との同盟を重視するという理由ではなく、全面核戦争の覚悟が出来ていないという理由で、米国はロシアに若干有利な形での講和にウクライナを導く可能性がある。ただ、このような繰り返し毎に、全面核戦争の恐れが急上昇する。

つまり、米国やロシアの大国どうしの覇権争いであるにもかかわらず、攻撃を受ける側は、差し当たり同盟国だということになる。

日本がもし米国から独立しており、中立の軍事強国なら、そのような事態に巻き込まれることはないだろう。日本はウクライナと同じ二極(中露と米)の間の緩衝国であることを忘れてはならない。(補足1)

NATO等軍事同盟は、一般的な国からの通常兵器レベルの攻撃には一定の効果が考えられるが、覇権国からの攻撃に対しては役立たないばかりか、対立する味方側覇権国の防衛壁や傭兵となる可能性が高くなる。(補足2)

日本の周辺では、米国が北朝鮮に制裁を強めた場合、北朝鮮の核ミサイルによる米国側への攻撃の最初の標的は米国本土ではなく、日本となるだろう。米国を直接核攻撃すれば、北朝鮮は短時間に国土の全域が壊滅的打撃を被るからである。

もし、中国と米国が核兵器を向けて対峙する事態になれば、その場合も最初の中国からの核攻撃の標的も、今回のウクライナにおけるシミュレーションにあったように、日本が最初の標的だろう。このように、米国との核兵器のシェアリングは日本にとって危険性が多きい割に、利益は少ないだろう。

伊藤貫さんは、チャネル桜での議論で、日本が核防衛するには、独自に核兵器を持つ以外にはあり得ないと言っている。その理由は、核シェアリングでは、核発射のボタンを押す実権は、核ミサイル供与国であるという点にある。 

 https://www.youtube.com/watch?v=rfHAdcVtMpM

 

上記議論は、単なる軍事同盟関係でも成立するが、非核配備国への核攻撃には一定の躊躇が残る筈である。しかし、日本が米国と核シェアリングしているのなら、日本は核攻撃の格好の餌食となるのである。


3)改めて問題設定:

ウクライナ戦争で今後核兵器が使われる可能性が議論されている。当ブログでも、日本の核武装に関する簡単な議論をしてきた。その一つの結果は、核兵器を持つためには幾つかの条件が必要であり、日本には核武装するだけの総合的な実力が無いというものであった。

どのような武器を持つにしても、国家防衛の第一歩は諸外国とまともに交渉ができる政府を持つことである。その第二歩として、日本は米国から真の独立を達成することが大事だが、それには独り立ちする能力を持たなければならない。

独立していない国家に真の防衛力など存在しない。国境と国土の大切さに国民が気付き、国民の支持で国防を具体化できる政府を育てなければ、日本国に真の防衛力など出来上がらない。憲法改正を口に出すだけで、保守政党を名乗れるような国では、核武装は数ステップ乗り越えた後の遠い未来の話である。

この多段階のプロセスを考えず、いきなり核武装すべきなどとネットのみで議論しているのが現在の日本の情況である。議論しないよりはましだが、それでは非武装中立を叫ぶ左派と同レベルである。70年間近く改憲が党是であると言いながら、国会に一度も改正案を出さなかった政党を政界から追い出すことが、その第一歩である。

そのような趣旨で書いたのが、4月24日の記事である:日本は核武装の前にまともな政治体制の確立を目指すべきである。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12739095349.html

日本がまともな政府を持ったとして、その後すべきは、先ず一定のレベルの独立したシンクタンクを幾つか、技術系、外交系、内政系の専門家を集めて創る。そこから出たレビューを議論する。シンクタンクは、篤志家が自分の私財を用いて創るのだろうが、それに対する国家の研究発注という形の支援が必要である。

防衛費のGDP2%達成という目標は理解できるが、それを米国の軍需産業に奉仕する形で、役立たない武器の購入に充てるのは非常に愚かな自民党の政策である。予算予算増加分は、この種のシンクタンクを育てるため等の”ソフト”の充実に使うべきである。

そのように考えると、国際政治や防衛問題の専門家、技術職の専門家が著しく不足していることに気付くだろう。防衛大学校だけでなく、一般大学にそのような部門を創るべきである。米国のコーネル大学には、軍事教育の部門(大学が経営するホテルの隣にあったと記憶する)があることを知り驚いた。https://armyrotc.cornell.edu/
 
そのような国内の政治体制、軍事関連ソフト機関などが、国民の防衛意識と相互作用的に育ったとき、そこで核武装までの具体的なシミュレーションが可能となるだろう。そこでは、北朝鮮、米国、中国、ロシアなどの国々の反応を予想し分析することになるだろう。

議論は、その機会を見出してから短時間に行うべきである。トランプがイスラエルの米国大使館をテルアビブに移した。その速いスピードに反対意見や反対運動がついていけなかった。日本の核武装もそのように迅速に実現すべきである。

反対運動が燃え上がるような時定数で核武装するのは、完全な独裁国でなければ途中で計画放棄することになる。それを北朝鮮が教えてくれている。動きの遅い民主国家が迅速に行動する独裁国と互角に渡り合うには、陰に隠れた機関を含めて、米国に学ぶべきだと思う。
 

(6/6早朝、下線部追加;一番重要な点を、当然の前提として書き忘れました。)

補足:

1)この現実について多少異なる角度からだが、産経新聞米国特派員の古森義久氏がある討論番組で以下の様に発言している。「(元自衛官の方とかが)近づくNATOの脅威に耐えられず、ロシアが仕方なくウクライナに攻め込んだように発言しているが、それなら、日米安保に脅威を感じた中国が仕方なく日本に攻め込むことも考えられる」と発言をしている。https://www.youtube.com/watch?v=NNl9eCd3joE (59分30秒あたりから)

2)朝鮮戦争のとき、米国は日本に憲法改正と本格的な武装を求めた。吉田茂内閣がそれに従わなかったのは、米国の傭兵になりたくなかったからだろう。自民党の憲法改正に対する躊躇は、そのような事情もあったと思う。その後、その危険性が小さくなったにも係わらず、岸信介に憲法改正を強く勧められながら行わなかったのは、中曽根康弘である。

 

 

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