今日まで、情報源の一つとしてyoutube動画を頼りにしてきた。以下に紹介する10分ほどの動画で、その長所と限界について教えさせられた。香港の政治動画サイト「役情最前線」の「私たちは皆、自分の考えの虜」であるが、それを構築するのは誰なのか? と題する動画である。
https://www.youtube.com/watch?v=LkYUnUQNCsg
この動画では、“世論”が作り上げられるプロセスを二つの”モデル(或いは理論)”で解説している。一つは①「Feedback Loop の罠」であり、もう一つは②「自由からの逃走」である。
「Feedback Loopの罠」とは、ネットなどで自分の好みにあった情報を選択的に見てしまい、ある一定の方向に自己洗脳してしまう危険性を意味する。それを手助けするのが、YoutubeなどのSNSのAI(人工知能)が閲覧数を稼ぐために用いるプログラムである。(補足1)
また、「自由からの逃走」とは、エリックフロムの本の表題であるが、社会的動物である人間の”遺伝子”に由来する。人は、真実や正義を追及する”険しい孤独の道”を放棄し、世の中の流れなどの既成権威に積極的に身を任すことで楽になろうとする本能のことである。(補足2)
今回は、この動画のテーマを、自分風に説明してみた。批判等歓迎します。
1)Feedback Loopの罠
今日、我々は様々な分野の情報を入手する手段として、例えばYoutubeなどのSNSを用いる。その場合、”お勧め”のメカニズムもあって、多くの似た動画等を繰り返し視聴し、その理解を深めることになる。思想や技術の習得において繰り返しは重要であるので、この機能は便利である。
しかし、その便利な道具を用いてある思想(或いは考え)を習得したとして、自分は本当にその思想の主人であると言えるのだろうか? 実際には、その思想の奴隷になっている場合が多いのではないか? それが、SNSが個人に仕掛ける罠である。この罠を、ここでは(繰り返し知識を与えられるという意味で)Feedbackの罠と呼ぶ。
多くの“知的な人”はそれに気づかず、その思想の主人であると信じて、SNSを利用してその思想を拡散させる。その結果、ネット空間が一色に染まることも良くあるだろう。複数の人を巻き込んだ形のFeedBack Loopの罠である。
今回の「役情最前線」では、ウクライナ戦争に対する人々の理解を例に挙げて説明している。その説明を真似て、筆者の理解するウクライナ戦争に適用してみる。
プーチンのロシアが悪者であるという情報を好む者には、ロシア軍によるウクライナに対する残虐行為の話が次々と提供される。そして、プーチン=悪魔説を“真理”として信じ込むようになる。
逆に、米国ネオコンの策略だと思う人には、その好みに合わせて、アゾフ連隊の悪辣なロシア系住民虐殺の情報やブラックウォーターなどによる米側からの干渉行為などが紹介される。その結果、その人はネオコン元凶説を固く信じ込むようになるだろう。(補足3)
このケースでは、政治がFeedback Loopの罠を仕掛けている。具体的には、SNSの経営者等が政治勢力の一角に居て、そのプラットホームの支配に乗り出した場合(補足4)、一般大衆に組上げられた思想の主は、その経営者が支援する政治団体などとなる。
そこでは、大きな権威には迎合するという「自由からの逃走」の本能が働くだろう。社会全体でのFeedback Loopの罠である。その結果、国家レベルの集団が洗脳されてしまう危険もある。
この場合の「自由からの逃走」とは一言で言えば、”長いものに巻かれることで、安心を得ようとする”人の性質を意味する。それは、人という動物を社会的動物とする遺伝子の発現と言える。SNSのAIにより選択される情報、長いものに巻かれる人の性、SNSを所有する巨大資本の意思などにより、ある地域の思想は一つの色に誘導される危険性がある。
その結果、国際社会は大きなプラスとマイナスを蓄積した安物のリチウムイオン電池のようになり、自然発火して大火事を待つ状態となる。それがウクライナ戦争の情況であり、今は大火事、つまり世界の大混乱の直前の可能性がある。
このような社会全体に広がる大洪水のような洗脳の嵐を防止するのは、まともな専門家が防潮堤のようにマスコミなどで活躍することである。社会は、そのような人材を育てなければならない。現在、本物の専門家が育たなくなっているように思うので、そのことを次に議論する。
2)本物の専門家を社会は育て上げられるか(オリジナル)
現在、インターネットに組み込まれたAIは、パソコンの前の全ての人に無限とも言える資料のなかから瞬時に必要な情報を抜き出して提供できる。その結果、大衆から見て専門家にも勝るリーダー的な知識と弁舌を持つ人物を多く育て上げる可能性がある。
問題は、彼らが自説の奴隷となってしまい、そこから自分を解放できないとしたら、大衆を惑わすリーダーとなり、最悪の場合は、悪の独裁国の成立を手助けする可能性がある。
一方、その人物が思想の主人なら、刻々情況が変化した場合でも、広い裾野から再考してその思想をより現実に即した考え方に変更することも出来るだろう。それは、本物の専門家は常にその思想と真実の間の乖離を実感できているからである。
別の表現では、自分が持つ思想の主が自分なら、その分野に対する言葉を超えた理解或いは直観を持っている筈である。その直観は、その分野の基礎と哲学的レベルからの思考法を持っていることによって備わると思う。その場合、真実に対する畏敬の念を持つ筈である。(補足5)
ところが、インターネットとAIで育てられた似非専門家は、縦の一次元方向に自分自身を教育し、非常に狭い範囲で高みに到達する。そのポールのような知識の先端で、自分の到達した高い位置にある種の快感を覚え、遠く低く見える専門家を冷笑し批判することになりがちである。
本当の意味での専門家と、俄作りの似非専門家の区別は、一般大衆には瞬時には附けられないが、長期間の発言の整合性や、その後の現実との照合などから区別がつく。
レベルの高い本物の専門家が、全ての専門分野を引っ張るような国になるには、その国に文化の厚みが無くてはならないだろう。
西欧の国々のみがそのような文化を貴族社会の中から作り上げた。しかし、貴族社会が崩壊した後の民主主義社会になって、徐々にその文化も平坦になり、その知的階層文化も崩壊しつつある。
そして、現在の資本主義社会では、全ての分野を資本の利益(キャピタルゲイン)の支配下に置くようになった。文化的には単色一次元の世界になりつつある。その結果、現代は年収がその人の人生の全てであるかのような世界である。
例えば日本では、指しあたり平均年収として最高額が期待できそうな医師への道に学生が集中するようになった。そして、多くの分野での本格的な専門家の養成がより困難になっているのではないだろうか。その様な情況での医師の質もまた、低下したのではないだろうか。 ここで一応話を終わる。
補足:
1)SNSでは閲覧数を稼ぐことは、そこに掲載した宣伝の閲覧数を稼ぐことになり、広告収入の増加につながる。SNSでの広告は、ビッグデータを利用して広告を個人向けに行い、高い広告効果を実現する。個人向けの動画などの推薦と広告の掲載は、全てAIにより自動的になされる。
2)文明の発展は人に多くの自由を与えた。食の自由、行動の自由、社会的自由などである。近代以前の西欧文明の裏にあった奴隷制度は、多くの人からこれらの自由を奪った。一般市民の自由の範囲も近代文明の発展により、拡大した。そのような自由を得た人が、近代的な都会の中で、近代的な組織の一員として仕事をする内に、自分の視野が自分の死まで広がったとき、えも言われぬ不安と孤独感に襲われる。その孤独感と対峙できない人は、何らかの束縛に身を委ねて一旦得た自由を放棄するのである。これが自由からの逃走である。(あくまで独自解釈です)
3)この二つの説のどちらが正しいかは、もっと問題を掘り下げればわかるだろう。それには少なくとも20世紀末のソ連崩壊と、そこからのロシアの資本主義化、そこでのIMFの働きなどから調査しなければならない。特に、2004年のオレンジ革命2014年のマイダン革命などからの歴史の調査は欠かせない。私は、米国のネオコンが牛耳る政権の責任だと思う。
4)国家やある種の組織によるSNSの支配は、それを社会インフラとしてのネットプラットホームから洗脳装置或いはプロパガンダ装置に変える。FaceBookやTwitterのAIが新型コロナや大統領選挙などのキーワードで、投稿されたものを削除したり、そのネット配信者を登録削除したりするケースが問題となっている。
5)正統な専門家は、ある分野の基礎全般を学び、それを自分の専門の土台として築き上げる。その基礎は、今でもネットではなく先駆者の弟子となって教えを受け、更に弟子たちの中で互いに切磋琢磨する形で築き上げられる。そのような場の提供が大学の役割である。
(19:00;18日早朝、全体的に編集)
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