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人類史の本流は中華秩序なのか、それとも西欧型秩序なのか

1)米国が露呈させた中国共産党政権の真の姿と日本の課題   日本が抱えている最重要な課題は、コロナ問題や拉致問題等ではなく、表題の問に対して明確な答えと姿勢を持つことである。短期的な経済的利益に囚われないで、現在が世界の歴史の方向が決定される時なのかどうかを考えるべきである。...

2022年7月27日水曜日

米中戦争に日本も積極的に参加するのか?

1)米国の対台湾姿勢における揺らぎ:

 

米国は従来から台湾は中国の一部であるとの姿勢をとってきた。これは、ニクソン大統領の時代に始まる米中国交回復の時から維持されてきた。つまり、米国の台湾問題に対する姿勢は明確である。それは現状維持と将来における平和的解決である。
 

以下に米国の台湾に対する姿勢を示した米国国務省のHPの文章を抜粋する。尚、最初の文章の “from either side”は、“米国からも中国共産党政府から”の意味である。

 We oppose any unilateral changes to the status quo from either side; we do not support Taiwan independence; and we expect cross-Strait differences to be resolved by peaceful means. https://www.state.gov/u-s-relations-with-taiwan/
 

一方、数日前、米国下院のペロシ議長が台湾を訪問するとの考えを公開した。中国国防省の報道官は26日の記者会見で「米国側が独断で強行すれば、中国軍は決して座視せず、必ず強力な措置を講じる。国家主権と領土を断固として守る」と明言し、中止を迫った。https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN25CQX0V20C22A7000000/
 

今回、ペロシ議長が北京の考えを無視して台湾訪問の予定を公表したことは、上記国務省の公式表明からは若干逸脱しており、中国側をイラつかせる原因になり得る。ナンシー・ペロシ氏は米国の下院議長であり、上院議長(=副大統領)に次ぐ大統領承認権を持っている米国政府に関係する重鎮だからである。

 

https://www.youtube.com/watch?v=_aFfw0JU28Y 

 

それに対して、マイク・ポンペオ前国務長官の台湾訪問の時(今年3月)には、このような強烈な警告はなかった。そして、今回もポンペオ氏は、「何なら、私も同行しますよ」とペロシ議長に向けてメッセージを発信した。(補足1) 

 

実は、ペロシ議長は、今年4月に台湾を訪問すると言っていたのだが、新型コロナに感染して延期になっていた。そして、今年8月に台湾訪問すると再度公表したのである。

 

中国は、今年秋に5年に1度の共産党大会を控えている。更に、毎年8月には北戴河会議が開かれるだろう。中国が神経質になるこの時期に、本当にペロシ議長は台湾を訪問するのだろうか?

 

上記日本経済新聞の記事によると、バイデン米大統領は20日、記者団にペロシ氏の訪台について「米軍はいい考えだと思っていない」と表明したようだ。ただこれは、米政府が公の場で計画を認めたことになり、非常に問題が微妙になった。

 

そこで、共和党のギングリッジ元下院議長は透かさずツイッターで「中国共産党の脅しで米国の下院議長さえ守れなければ、中国はどうして米国が台湾を守ると信じるのか」と指摘した。この発言は、民主党とバイデン政権を攻撃する有効な一撃になっただろう。

 

尚、今年5月ネット上に公開された、広東省軍の上層部による戦前動員に関する秘密会議の録音は、昨今の緊迫した情勢を伝えている。(大紀元ニュースのyoutube報道を本ブログ520日に引用)
 

 

2)「台湾有事は日本有事」という安倍元首相の発言について

 

安倍元総理が昨年12月に台湾で開かれたシンポジウムに日本からオンライン参加し、「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と語った。この言葉は自民党政府だけでなく、広く日本で受け入れられているようだ。https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20220722/pol/00m/010/008000c
 

この発言の前半は、「有事」という言葉の定義により、中国を対日戦争に引き込むほどの危険な発言から、極めて常識的な発言にまで、その意味は大きく振れる。ただ、後半に日米同盟の有事とあるから、この有事は「軍事行動を含む対応が要求されること」と解釈され、問題発言となる。

 

日本の現状を前提にすれば、私はこの発言を素直に受け入れる訳にはいかない。何故なら、中国は核大国である一方、日本は憲法上国防軍も持たず、ましてや核武装国でもないからである。戦争できる国家としての体裁を全く整えていないのだ。(補足2)

 

一般に、国際的問題の交渉においては、戦争の可能性を背後に見せながら臨むのである。それは、近代政治文化の常識である。(補足3)ただ、核兵器の出現により、このクラウゼヴィッツの戦争論の考え方で外交が出来るのは、核保有国のみとなった。

 

それでも西欧諸国に関しては、英国やフランスが核保有国として存在する。それ以外の国も、EUに含まれる場合或いはNATOという軍事同盟に含まれる場合は、核兵器にアクセス可能だという体面を保持しているので、まだこの種の外交にまともに臨むことも限定的だが可能である。

 

しかし、日本国は交戦権を放棄した国であり、この種の外交の現場に登場可能な国ではない。その限界を承知の上で上記発言がなされたのか、私には疑問である。(補足4)


 

3)ポンぺオ発言は日中戦争の導火線なのか

 

この情況に関して、日経ビジネスon-lineの記事は、「ポンペオ発言は日中戦争の導火線なのか」と題する記事を書いている。その中で、キャノングローバル研究所主幹の瀬口清之氏という方が以下のように指摘している。https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/040500323/

 

今年3月の訪問時にポンペオ氏は「米国は必要かつ、とっくに実行しておくべきだったことを直ちに行う必要がある。台湾を自由な主権国家として承認することだ」と発言した(補足5)が、その先には米中戦争が存在する可能性がある。
 

このポンペオ発言は、来るべき選挙に勝つことを目標において、民主党を危険な罠に陥れるためのものだと考えられる。或いは、通常兵器による米中衝突なら、この際視野にいれるべきだとポンペオ氏は考えている可能性もある。

 

その場合のポンペオ氏の考え方は、次のようになるだろう。中国は核兵器での全面対決をする気は無い筈だし、米国には勝てない。通常兵器での戦争になったとして、その前面で戦うのは、台湾と日本(韓国も含まれるかも)になる。つまり、日本をウクライナのように用いても、米国には大した損害ではない。

 

ここに戦争は避けるべきだとトランプは考えるだろうか。もし、ポンペオとトランプの間にこの問題で考え方の違いがあるのなら、昔の記事でポンペオ氏を次期大統領として適切だと書いたことを取り消さなければならない。

 

通常武器での米中戦争になった場合、中国は最初に米空軍基地の横田や嘉手納を攻撃するだろう(上記記事)。その場合、日本は中国軍と戦わなくてはならなくなる。その結果、台湾と日本は今日のウクライナのようになるだろう。

 

つまりポンペオ氏の戦略は、緩衝国である日本と同様の位置に近い中台湾を利用して、共産党支配の中国を崩壊させる、一石三鳥の政策なのである。それは、バイデン民主党政権によるウクライナ戦争、ウクライナを利用したロシア潰し、とソックリの構図である。

 

このポンペオ戦略に迎合したのが、安倍元首相の「台湾有事は日本有事、そして日米同盟の有事である」との発言である。勿論、共和党が中間選挙に勝ち、大統領選挙においてもポンペオ大統領が誕生すれば、それは日本にとって心強いと考えられたのかもしれない。
 

ただしその場合は、日本がまともな独立国であり、独自に核兵器を持つ国家でなくてはならない。そのような国になることを第一に阻害してきたのは米国である。(補足6)日本の安全保障で第一に目指すべきは、真の意味での日本の独立である。

 

日本の近未来は非常に暗い。米国にとって、中国は競合国であるが、日本は、トルーマンのアンオフィシャルな発言を借りれば、家畜である。政権を民主党がとっても、共和党がとっても、先は暗い。先が暗い理由の第一は、日本の政治家があまりにも知的でないからである。


 

補足:
 

1)ペロシ氏は、人気低迷中の民主党の人気挽回を目指して、このような発言をしたのだろう。その動機についてはあまり議論せず、及川幸久氏(上の動画)は積極的にペロシ訪台を支持している。しかし、日本国民の安全を第一に考えた場合、米国の選挙がらみの発言を応援するのは間違いだと思う。勿論、ポンぺオ氏の対台湾姿勢は、2020年のフーバー研究所で公表した中国脅威論を考えると本気かもしれない。しかし、その尻馬に乗ることも日本にとって危険である。

 

2)自民党は、憲法改正を党是として掲げての結成以来、2/3世紀を過ぎてもなお、憲法改正案の国会提出はおろか、国会での正式な議論すらしていない。その元総裁が、このような発言をするのは愚かというしかない。勿論、日本が国防軍を持ち核保有の、イザとなれば戦争できる国になるべきだと思うが、それは現状殆ど不可能である。尚、まともな外交は、背後に相手国に一撃を加える能力を背景にしてなされる。この世界の常識である近代の戦争論の考え方を、日本人のほとんどは理解していないようだ。

 

3)以前にも書いたが、そのような姿勢など一切見せないで、拉致被害者を救出する交渉を北朝鮮に対して行った小泉政権の愚かさ、更に、その際大金を北朝鮮に渡したとしたら。。。。。もう言うまい。

 

 

4)元自民党の山崎拓氏がこの問題に似た趣旨のコメントをされている。https://news.yahoo.co.jp/articles/95a39955bee6e21ae21b1ad696cf0ce2bc118655

 

5)ロイターの記事にポンペオ氏講演の動画が紹介されている。そこで、明確に本文にある発言を行っている。https://www.reuters.com/world/asia-pacific/us-should-recognise-taiwan-former-top-diplomat-pompeo-says-2022-03-04/
 

6)日本が、自国の安全を第一に考えた外交が出来るのなら、地政学的に潜在敵国同士であるロシアを日本の協力国の位置に置く筈である。その最初のステップである日露平和条約締結を二度(一度は日ソ平和条約で、鳩山一郎内閣の時のこと)に渡って米国は妨害した。その上、日本と韓国、日本と台湾との間にも、其々未確定の領土を置いて、これらの国と近い関係を樹立することを妨害したのである。http://gakui.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/gazo.cgi?no=110746

(13:00 編集、表題変更)

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