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2016年10月13日木曜日

天皇という不明瞭な存在

私は文系人間でないので、社会などに関しては素朴に見る傾向がある。その所為か、天皇という存在が非常にわかりにくい。戦前、天皇は憲法という国民との間の契約を前提とする君主であった(立憲君主制)。しかし、旧憲法一条は「大日本帝國は万世一系の天皇之を統治す」であり、憲法を改正しようと思えば、勅命により議会の決議に付さなければならない(旧憲法73条)とあるものの、実質的には絶対君主制であったのは明らかである。大正時代の普通選挙法制定などの民主主義実現の動きはあったが、治安維持法も同時期に制定された。その結果、昭和には民主主義とは逆の方向に動くことになった。

敗戦後憲法を改正したが、その手続きは大日本帝國憲法73条の手順で進められた。しかし、日本国憲法前文の最初は、「日本国民は、・・・・・・ここに国民の総意が至高なものであることを宣言し、この憲法を確定する」となっている。改正の手続き(天皇の勅命で行った)と制定された憲法の内容(国民が確定した)が異なっている。とにかく、日本国憲法からしてこのような矛盾を出発点に持つことを考えれば、この国の何もかもが、論理的に一貫しないのは当然である。

その結果、太平洋戦争で甚大な被害を受けながら、絶対君主性から象徴天皇制という訳のわからない国体となった。形の上では民の意思により改憲が可能な憲法を持つ国家になったものの、そのハードルは高く設計されていた。その理由は、為政者にはほとんど透明な存在の天皇でも、その影に隠れる存在が欲しかったのだろう。巨大な存在であったマッカーサーも、本国国務省の反対意見を封じてでも、同じ理由で天皇制を残すことに拘った。

戦後日本国民は、天下り的に民主主義体制を得ることになったが、「獲得したという感覚」を持たせない為に、或いは戦争責任の追及を国民に放棄させるように、政府は近代史の教育をさせなかった。現在与党である自民党は、憲法改正によって天皇を元首としてその存在感を高めることを企んでいる。隠れる影を大きくより明確にしたいためである。

最近白井聡という人の「永続敗戦論」という本を覗いた。そこには永続敗戦とは日本が第二次大戦での敗戦を、そのまま受け入れずズルズルと拒否する状態をいう。その最も大きな原因は、波風を最小限に抑えようとする日本文化であり、占領軍もその後の政治も差し当たり波風を最小限にする為に、天皇を利用できる形で残した結果である。

現在与党である自民党が目指している憲法改正案では、天皇を象徴天皇という透明な存在から国家元首に戻そうとしている。その動機を密かにして、明確に抵抗しておられるのが、今上天皇であると思う。

追加:

今上天皇は譲位したい旨の発言を国民の前でされたが、それを実現するには本来皇室典範の改正を要する(補足1)。それは国家体制を再考することになり、普段政治を考えない国民も日本の体制を考えることになるだろう。国民に向けた放送の中で、今上天皇は多数回「象徴天皇」を強調されたことの意味を、国民は深く考えるべきである。。

天皇陛下による国民向け放送の動機について、左翼と言われる人たちは、憲法9条の改訂を遅らせる為だと解釈したが、私はそうではないと思う。天皇陛下は政治への過度な干渉はされないと思う。

天皇陛下が送りたかったメッセージは、既に自民党は憲法改正原案を公開しているのだから、国民は「それをよく読んで天皇の地位に関する条文(日本の国家体制)をしっかり考えて欲しい」ということだと思う。

自民党案では、「天皇を元首とし、君が代を国歌とする」と書かれている。本当にそれで良いのか?https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf

補足: 1)自民党と政府は、特別法で一代限りの譲位を可能にする特別法でこの問題を国民に考えさせないようにしようとしている。

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