文藝春秋12月号のエドワード・ルトワックの「米中冷戦、日本4.0が生き残る道」という記事を読んだ。ここで日本バージョン4.0とは、江戸幕府ができた日本、明治新体制、戦後体制に次ぐ、近代4番目の期待される改革後の日本を意味している。より具体的には、米中新冷戦の中を生きる新しい日本という意味である。
日本の何を新しくすべきなのか。それは米国との同盟を深化し、東アジアでの親米ネットワークの中心的役割を果たすべきだということらしい。米国は、各種ロビー団体も議会も反中で一致しており、反トランプの勢力から唯一批判がないのが、反中政策だと言う。共産党支配の中国との付き合い方は、最新且つ最大の米国の外交課題だろう。
私にはルトワックはトランプの背後に居るように思える。それは、この原稿全体を通して、これまでのトランプ政治と乖離した考えが見当たらないからである。
1)朝鮮半島について:
ルトワックの考えでの理想的な朝鮮半島の姿は、北朝鮮からの核廃絶と米軍の朝鮮半島残留のようである。核廃絶と米軍残留のどちらが大事かといえば、後者だと考えているようだ。そして、日本は半島の非核化や拉致問題解決を性急に実現しようと考えてはいけないと言って居る。現状、つまり、北朝鮮が核保有し在韓米軍が存在する状態が、日本にとってそんなに悪くないとも言っている。
日本人向けの文章なので、言葉を選んで居るが、おそらく反中を貫く為には米国と北朝鮮の協力関係樹立が望ましいと考えているのだろう。そのモデルはベトナムである。つまり、ベトナム戦争で勝ちながら、北ベトナムはベトナム統一後に親米反中になった。それと同じプロセスを朝鮮半島にも期待しているようだ。
北朝鮮がベトナム方式を採ると確信できるのなら、安倍政権の協力を得て、米国の制裁解除と日本の経済協力をセットで北朝鮮に提示する予定なのだろう。つまり、今となっては文在寅政権の韓国よりも、北朝鮮を中心に米国は考えて居るのだろう。ルトワックは明確に、「韓国の方が親中である」と言って居る。
実現すべきは、北朝鮮との協力関係樹立、北朝鮮の経済復興、それに対する日本の協力だが、その障害になるのが、北朝鮮の核兵器と拉致問題である。北朝鮮を親米国とする為に、ルトワックは上記二つの問題解決に対する日本の性急な欲求を抑えているのである。
また、仮に北朝鮮を非核化して、韓国主導の自主独立統一朝鮮が実現した場合、その延長上には中国の属国としての統一朝鮮しかあり得ないと考えている。それ故、日本が目を開いてしっかりと韓半島の二つの政権を見なくてはいけない。
日本に文在寅政権の本音を語ってくれたのが、あの徴用工裁判である。文在寅は最高裁のトップに、自分の考え通りの判決を出してくれる人物を据えた。あの判決は、文在寅の韓国の国際社会における信用を一挙に失う結果になっただろう。おそらく金正恩は文在寅をバカにしているだろう。何故なら、恐ろしい中国を知らないからである。
その考え方に似た分析を、9月20日のブログに紹介している。主として、藤井源喜さんの考えである。https://blogs.yahoo.co.jp/mopyesr/43760281.html
日本と北朝鮮の関係は未だ敵対だが微妙に変化している。一方、韓国は表向きとは違って、今や反米反日だろう。この”逆転現象”(動きの方向)は、文在寅政権が続く限り続くと考えられる。
2)日露関係および日中関係について:
反中国の朝鮮半島、日本、東南アジア、豪州、インドの弧状のネットワークには、ロシアを入れることが大事であるとルトワックは考えている。シベリアの長い国境線は、必然的にロシアと中国の間に深い不信感を生じる。そのロシアにとって、非常に魅力的なシナリオは、日本との極東での経済協力である。
ルトワックの日本4.0の一つの大きな部分は、日露友好関係の樹立だろう。それは、トランプ政権も賛成だろうが、米国の反トランプ勢力は反対のようだ。その反露姿勢は、単に無知なのか、中国利権に完全に取り込まれている結果なのか分からないが、どちらかだろう。ウクライナの件やシリアの件に目が奪われているのも原因の一つかもしれない。(補足1)
日露友好関係樹立は、日本にとって中国の脅威の緩和に大きな働きが期待できる。更に、ロシアの天然資源とロシア市場の両面から経済的利点も多い。しかし、ロシア人のほとんどは忘れているか、或いは、知らないのかもしれないが、日本人にはロシア人に対する嫌な記憶が残っている。その障害を取り除くのが二島返還である。(補足2)
その必要性をロシアの人々に理解させるためには、ソ連は日本が降伏の意思を表明した後、日ソ中立条約に違反して一方的に宣戦布告し北方領土を奪い取ったこと、その後日本人を多数虐殺し婦女子を暴行したこと、数十万人という日本人を奴隷化してシベリアに抑留したことなどを、ロシア人に広く教えるべきである。このことも、欧米で一般に信じられている第二次対戦の歴史認識は、一方的であることを示している。つまり、英米と戦った日本やドイツを悪の帝国と捉えているが、一般に歴史のなかで一方的にある国が非難されているとしたら、それは誤解に基づく。(補足3)
また日本には、ロシアと中国を比較すれば、中国に親しみを感じる人の方が多い。その理由として、同じモンゴリアンであることや、漢語や箸を用いる共通の文化を持つこと、更に、中国に侵略された経験がないことなどがあるだろう。
しかし、中華帝国とも言うべき共産党支配の中国は、沖縄も中国に属すると明言し、太平洋を米国と二分しようと米国に提案した国である。ここは、新しい情勢の下、米国のトランプ政権に協力する姿勢が大事であると思う。
一般的に、その土地に住む人と国家体制は区別して考えるべきである。また、その国には複数の勢力が存在することを念頭に、現在の政権をその国自体と考えないことも大事である。そう考えれば、習近平の中国が早期に世界戦略を明らかにしたことは、馬脚を表したというべきであり、ずっと先にある日中友好が近づいたと考えるべきである。
勿論、日本の安倍政権は、既にそのことは考えて居る筈である。全体としては、既に書いた様に米国の代表的な戦略家であるルトワックは、トランプの背後に居るという印象を受けた。以上、素人の感想である。
補足:
1)ウクライナ問題の発端は、合法的に誕生しているヤヌコビッチ政権をどこかで計画されたテロで、大統領が逃亡したことである。この件、4年前に議論している。http://rcbyspinmanipulation.blogspot.jp/2014/03/blog-post_22.html
2)日ソ共同宣言で両国の戦争状態は終結した。その時、何故ソ連は日本に歯舞群島と色丹島の返還を約束したのか? それは、過去ソ連側に負い目となる行いがあったことを意味している。
3)戦前の日本やドイツを悪の帝国と決めつけるのが、ドイツ以外の欧米の人の常である。それが偏見に満ちたものであると、そろそろ知るべきである。既に、フーバー元大統領の考え方が明らかになり、フランクリン・ルーズベルトがある一派に支配されていたことが明らかになった以上、米国の一般国民もそれを知るべきである。
それと関連して、ケネディーが何故暗殺されたのか、中央銀行を国家の機関として持とうとしたリンカーンも何故暗殺されたのか、何故アフリカの内部から貧しい人たちが難民としてヨーロッパを目指す旅が可能なのか、何故ホンジュラスからあの時期に大勢の人が何の障壁もなる米国とメキシコの国境に集まることが可能なのか。それらの疑問は、全て一つの人たちの企みであると考えれば溶ける。
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