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2018年12月12日水曜日

巨大資本によるグローバルな植民地化:大前研一氏の講演(新世代の為の世界と日本 新たな繁栄を求めて)の感想

1)久しぶりに大前研一氏の講演(新世代の為の世界と日本 新たな繁栄を求めて:ダイジェスト版)をyoutubeで聞いた。世界の政治経済の動向については、面白かった。一つの視点から見た話だという前提を置けば、勉強になる良い講演だと思う。(補足1)ただ、その考え方は偏っていて、日本に古くからいる一部アメリカ人の方とそっくりなトランプ批判である。https://www.youtube.com/watch?v=35Y-pufajq8

最初、アメリカの国際政治や経済のあり方が、世界のモデルとなってきたという話から始まる。トランプ政権の誕生により、そのアメリカモデルが破綻したことを嘆く気持ちは、アメリカの新聞と同じである。しかし、アメリカモデルを破壊したのは、アメリカ自身である。もし、これまでのアメリカモデルが現実論の積み重ねで出来ていたのなら、中国の台頭に慌てふためくことはない筈だった。

多民族国家を束ねる工夫として、わかりやすい理想論を建前にし、見得にくい所で、本音で行動するという方針でやってきたのがアメリカである。それをブレジンスキーは白状している。「ネット社会になり、政治に詳しい人が100万も出てくれば、それに一々対処するより殺す方が簡単だ」という趣旨の発言は、世界に広がっている筈だ。

従って、前者だけ(理想論の部分)では世界各国のモデルたり得ない。その証拠に、アラブの春はなんだったのか?単に、アラブを破壊しただけである。その理想論、つまり少数派でも権利は保障されるという理想論(つまり自由と人権の論理)で国家を束ね、その支配層としてユダヤ社会が座ることに成功したと、現実論者のブレジンスキーが回顧録の中で書いているという。(馬渕睦夫さんの動画)

その米国の現実的な政治と経済における世界支配の中身を、理想論をラベルにして、世界のモデルであったと大前さんは言っている。大前さんは、米国の支配層の利益を代弁して、20世紀のアメリカの論理を主張しているにすぎない。大前氏の日本政治批判、安倍晋三と黒田東彦の批判は、多民族国家としての米国の歴史と看板の理想論を無視して、その強者の現実論を日本に適用しているように思える。

大前さんは自著の「The end of the nation state; The rise of regional economies」を紹介し、それが日本以外でよく売れたと言っておられる。Nation Stateが終わるというのは、グローバリズムという意味である。その主張を1990年代から、大前氏はやってきたのだ。勿論、"正義に基づいた"グローバリズムの実現は、遠いけれども人類の目標である。Nation StatesからThe global state of nationsへの移行を具体的にどのようにするかが、21世紀の人類に与えられた課題であると思う。(追補参照)

その難問の内、現在最大の課題が欧米とは異質なNationStateである中国の問題である。未だに帝国の領域に残る大国が、先を進む欧米に対し挑戦している姿が、現代の世界政治の渦の中心にある。その課題に向かって、現在トランプは戦っていると思う。

トランプは、グローバル資本のアマゾンなどを目の敵にしているようにも見える。米国におけるトランプ批判とは、現在の政権に対するグローバル資本の代弁者である米国報道機関の反論に過ぎないのだろう。アマゾンのトップがワシントン・ポストを所有していることを、講演で紹介している。

2)大前さんの考え方の実質は、自然競争の原理つまり強者の論理を優先すべきという考えである。従って、餌場は広い方がよく、世界規模で人も金も集めて会社を大きくするというグローバリズムを善とする。

世界経済を大きくするのには良い考え方であるし、将来の日本を強い経済の国にするのにも良い考え方だと思う。未来に、たくましい日本人と巨大な経済を今の延長上に探すのなら、弱者は滅びる方が日本の為になる。単なる法人ならそれは当然かもしれない。

ただ、政治は現在の人間にも一定の配慮が必要である。その視点が見事に欠けている。富とルールを分配するのが政治だとすれば、その配分は現在と未来の両方に向けてしなければならない。未来へ向けた部分は大前さんの考えが良いと思うが、それを全体だと聴衆が思い込むことへの配慮がなければならない。 その配慮が見えないので、このような批判をすることになる。講演で大前氏は、21世紀を見ての話だと言うが、その論理は先進国にとっては20世紀のバージョンである。20世紀に強者となったものが、21世紀も同じ原理で外の獲物を探したいという論理である。明らかに21世紀を直視しているトランプを糾弾する資格は、大前氏にはないと思う。

単に金儲けがうまさだけで、人間の能力を計るのは尊大である。人間は有史以来、人と人との協力とそのための弱者への配慮の方法を探してきた。それが人間の作り上げた文化である。グローバリズムは、将来の人類の夢であるが、その性急な追求は、自分が金持ちになりたいという人を作るだけである。

その中で、弱者は涙の中で死ぬのみであり、それが自然だというのはあまりにも残酷ではないのか。何故日本人は、いざというときのために金を貯めるのか?それは日本社会が、大前氏が主張する20世紀の経済の論理で変化し、家族関係が破壊され、老後は金しか頼るものがなくなったからである。

「税は資産課税だけにして、所得税と法人税は全廃する」という考え(講演の40分位から)には、老いて尚不安に苛まれる人への配慮の欠片もない。大前氏が日本人なら、座禅でもして、或いは、断食でもして、もう一度人間とは何か、文化とは何かを考えたらどうかと進言したい。

以上、大前氏の講演(動画でみた範囲)に対するコメントを繋ぎ合わせ、整理した文章である。筆者は理系で定年まで働いた素人なので、間違いがある可能性が高いので、玄人の方は是非その指摘や全体的な批判をしてもらいたい。

補足:

1)大前氏の講演のなかで、インド人は優秀であり多数が欧米グローバル企の経営者としなっていることを紹介している。そこで、ネット検索すると、そのリストが現れた。

• Softbank -ニケシュ・アローラ氏(Nikesh Arora)
• Google -サンダー・ピチャイ氏(Sundar Pichai)
• Microsoft – サヤト・ナデラ氏(Satya Nadella)
• Adobe systems -シャンタヌ・ナラヤン氏(Shantanu Narayen)
• Master card -アジェイ・バンガ氏(Ajay Banga)
• PepsiCo -インドラ・ヌーイ(Indra Nooyi)
• ドイツ銀行 -アンシュ・ジェイン氏(Anshu Jain)
• NOKIA -ラジーブ・スリ氏(Rajeev Suri)
• SanDisc -サンジェイ・メロートラ(Sanjay Mehrotra)
https://indiamatome.com/business/indianceo

大前氏は、インドの優秀な人は、自国に帰ってインドを豊かにしようとしないで、欧米で活躍することを考えると言っている。それは、世界を不均一に発展させるグローバリズムの結果の一つであると思う。つまり、現在のグローバリズムは、発展途上国の巨大資本による植民地化である。

追補:
上記21世紀の人類の課題とした部分で書いた「Nation States からThe global state of nations の実現」は、「諸民族が連携した世界国家の実現」の意味です。(13日早朝)

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