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2019年9月3日火曜日

グローバル政治経済雑感

1)意思ある資本

資本家は、投資先の会社が儲けを出して、資金の実質的増加を目指す。将来性の無い会社の株は売却し、そこから去る。それは、投資家個人の性格とは無関係に、資本が増殖の意思を持って移動すると考えても良い。

国境を跨いだ資本の移動の自由化、世界各国の経済活動に於けるルールの共通化などの環境が揃うと、国際的な資本家や機関投資家(補足1)の資本は、自己増殖のために先進国から途上国を目指し移動する。経済のグローバル化である。その結果、先進国からの資本逃避と同期して、先進国の貧困化と途上国の発展がセットで起こる。

途上国への資本の逃避が進むと、既存の製造設備(工場や企業)は、そこで生産しても途上国産との競争に勝てないので閉鎖される。そして、それに代わる新規産業が育たなければ、その国の実質的な経済規模が小さくなり、デフレ不況となる。資産価値の減少から、信用収縮(補足2)が起こるだろう。

つまり“意思ある資本”は、安い労働力の途上国に流れ、そこで作った製品を先進国に輸出するパターンを創り出す。それにより、途上国で製造業の創業と経済規模の増大が起こる。先進国が不況(労働者の貧困化防止)にならない為には、先進国での新規産業創出や、先進国に残った既存産業の規模増大が必要である。

このモデルでの世界経済拡大は、先進国での新規産業の創出が可能な間はスムースに進むが、新規産業も一定時間後は既存産業となるので、いずれ途絶える。その時、デフレ圧力は世界的な信用収縮(クレジット・クランチ)となり、世界同時不況になる可能性がたかい。それが現在の世界の経済情況だと筆者は理解している。

新規産業の創出力に欠ける国、例えば日本では、実質労働賃金の減少や円安でもって対応するしかない。(日銀の物価目標を設定して、そこまで通貨発行量を増やす政策は、購買力平価の点から過大評価された円を適正方向に導くレベルである。補足3)忍耐強い国民の性格と、技能実習生受け入れなどのインチキ技でしのいでいる。それが日本の現状だろう。
https://blog.goo.ne.jp/itagaki-eiken
https://foomii.com/00018/2019082007000057596

2)貧富の差の拡大

資本が自己増殖の意思の下にグローバル展開を進めた結果、少数の資本家は益々巨大な富を手にし、超富裕層となる。その一方で、外国に移動した業種(既存産業)とその関連で経済基盤を維持してきた人たちは貧困層に脱落する。その中間に、グローバル展開する資本(企業)の管理等業務に関係する人たち、その宣伝部門と関連するマスコミや芸能関係者、スポーツ関係者などは(その国の経済成長が続く限り)、新貴族として富裕層を成すようになる。

社会での富の分配の公平性を示す指数としてジニ係数がある。その定義を示した図が下の図である。つまり、貧しい順に個人の所得を横に並べ(X軸)、縦軸(Y軸)に原点からその横軸の位置まで並んだ人の合計所得を取ったとき、一つの下に凸の曲線ができる。下図で、Bの面積をAとBの部分の面積で割り算したのが、ジニ係数である。この曲線の原点付近(左下)の傾きが、貧困層の一人あたりの所得、X軸の右端の傾きが超富裕層の一人あたりの所得を表す。


ジニ係数には、年間所得で計算した値と、全資産で計算した値がある。一般に前者よりも後者の方のジニ係数が大きい。多少変な表現だが、資産での貧富の差の方が所得での貧富の差よりも、普通かなり大きな値となる。

兎に角、グローバル経済化により、欧米の先進国の国内総生産(経済規模)は大きくなると同時に、貧富の差が拡大してきた。新規産業創出がかなり順調にあり、GDPも数倍になったとしても、それは富裕層の富の拡大になるだけで、最下層の生活基盤を維持することは大変である。典型例はアメリカである。(補足4)

中間的な技術を要する仕事は、ほとんど途上国に移転した方が、企業としては利益が上がる。従って、それらの仕事は本国でなくなり、最下層である単純労働の市場に人が増加することになる。最低賃金が法で決まっていれば、その仕事量は普通増加しないので、失業者が増加することになる。

つまり、グローバル化は、誰でもできるサービス業などでも、途上国の労働者も先進国の労働者も平等に扱う。その部分に途上国からの移住者や技術実習生という形の低賃金労働者を入れるのは、大変な過ちである。それは、本来定年延長や無駄な大学教育の廃止などで対応すべきなのだ。

その一方で、以下の人たちに蓄積される富は拡大し続ける。世界を股にかけて移動し本当は何処に居るか分からない超富裕層と、世界的企業の広告業の端に位置する(巨大クジラのコバンザメのような)マスコミ関係者や芸能人、それにスポーツ選手たち新貴族である。公務員や、世界的企業の管理運営に携わる人などの中間層は減少する。日本でも、一億総中流と言われた時代は短かった。

日本ではこの30年ほとんどGDPは増加していない。それでありながら、ジニ係数は増加し続けている。日本国のこの困難の原因は、政治家の知能不足、労働流動性の低さなど閉鎖的文化、官僚という下で働いて高給を欲するという特殊な学歴秀才などの「複合汚染」にある。

上の図は主要国のジニ係数の経年変化を表したグラフである。日本の場合、社会不安が起こると言われている0.4には未だ及ばないが、特殊性を考えればおそらくそれより低い値が危険レベルだろう。

社会主義的政策で富の偏在が少ないと思われてきた北欧の国スウェーデンでも、ジニ係数の急激な増加が見られる。世界は混乱直前にあることが、このジニ係数の急激な増加からもわかる。

3)軍需産業の問題:

この貧困層の拡大の問題を部分的に解決しようと米国の支配層が魔の手を伸ばしたのが、軍需産業である。軍需産業は既存産業の部分が大きい。兵士などは、有史以来の単純労働でもある。この類の話の中では非常に古い例だが、1929年の世界恐慌からの脱却は、米国の財政拡大策(ニューディール政策)でも困難であり、結局は第二次大戦に頼ることで可能になったというのが通説である。

今日では、戦争はハイテクを駆使したものが主であり、兵士もそれほど単純な仕事ではないと言われる。しかし、あの時代の兵士は、そして、途上国での陸戦に限れば今でも、有史以来の単純労働である。その部分の労働力吸収が、そして、軍需産業全体の膨張が、米国経済を立て直したという。F・ルーズベルトは正にそれを狙って、日本をターゲットにしたのである。

現在でも、異常な富の偏在とデフレ不況は、食料やエネルギーなど最低限のものを自家調達出来る国家なら、高いインフレ率と新札発行(現代の徳政令)などで、不況脱出は可能かもしれない。或いは、世界に一つの国しかないのなら、MMT(modern monetary theory;https://rcbyspinmanipulation.blogspot.com/2019/08/mmt.html)の採用も可能だろう。

しかし、米国がそれを採用できないのは、基軸通貨を守るという至上命題があったからだと思う。そして、20世紀末の世界戦争の多くは、自国経済成長路線維持と世界経済の牽引者としての地位確保のために、彼らによりプログラムされたものだといわれている。9.11やイラク戦争の時に起こった色々な不思議な出来事を、そのモデルで解釈しているのが馬渕睦夫元駐ウクライナ大使であり、その同じ国際政治のメカニズムを現象論的に独自に出しているのが、国際政治評論家の田中宇氏である。

その異常な世界政治経済のメカニズムを、意識してか無意識かは分からないが、破壊しようと立ち上がったのが米国のトランプ大統領だと思う。明確に意識しているとするのが、馬渕元大使である。その点を十分信用できないと感じている私は、素人の勉強不足の所為なのかもしれない。

終わりに: 日本国民の私としては、日本の政治改革に期待するしかない。日本の政治改革に前回のブログ記事でボロクソに批判した自民党政権だが、クーデターを望むわけではない。比較的能力の高い安倍総理の下で、選挙区改革をやってもらいたい。そのために、正しい知恵袋を持って欲しい。道州制や地方分権の必要性は、元大阪維新の会の橋本徹氏や、経済評論家の大前研一氏らが主張していたことである。国際的視野を持った人を参与ではなく、議員として育てて欲しい。

補足:

1)法人格をもつ団体や会社が、投資を業とする場合、それらを機関投資家という。日本では、都市銀行や日本生命などの法人が著名。

2)多くの経済主体の貸借対照表(B/Sと略記)において、資産価値は金融機関からの貸し出し可能額に繁栄する。そして、金融末端での資産価格の減少が起これば、金融機関の貸し剥がしが起こる。それが金融機関から中央銀行に波及し、通貨発行量の減少となる。中央銀行や一般銀行のB/Sの貸方をCredit(或いはLiablity)と呼び、その額の急激な縮小をクレジット・クランチと呼ぶ。それは同時に末端での貸し剥がしを意味する。国際資本が国外に逃避する場合、株価の下落はB/Sの縮小を招くとともに、その国の通貨安に繋がるだろう。日本のように通貨高に悩む国ではわかりにくいかもしれないが、普通通貨安は国家経済の危機におこる。(専門家の方のコメントがあれば、歓迎します。)

3)日本は世界1の経常黒字国である。企業はその黒字分を有効に海外投資できないので、円に交換して利益に計上する。それでは円高になってしまうので、多少の円安政策が必要である。それでも尚、ビッグマック価格という指標では日本は未だG7では最低である。https://ecodb.net/ranking/bigmac_index.html

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