1)中国での民間主導の外国製品不買運動:
中国共産党政権は、現在かなり追い詰められた情況にあるようだ。アラスカでの米中会談の冒頭で、中国の外交責任者の楊潔篪が2分程の予定を10分以上超過して、米国批判を行ったことが、それを象徴している。大方の見方は、専ら国内向けのパーフォーマンスだということである。
更に、EUとの関係だが、昨年貿易協定に合意したものの、その後ウイグルでの人権問題などで深刻な対立情況にある。(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-12-30/QM5NPTT1UM0W01)
そこで、中国共産党政権(以下CCP;補足1)はスウェーデンのH&Mの製品のボイコットを指示した様だが、それがユニクロ、ナイキやアディダスなどのブランドの不買運動にまでが拡がってしまったようだ。
Harano Timesのyoutubeによると、H&M以外の製品の不買運動は、CCPの指示ではなく、芸能人がそれらのブランドが行うコマーシャルから、自発的に撤退したことなどを切っ掛けに、国民全体に拡がったという。(補足2)
EUとの貿易協定は、米国との本格的対立が避けられないとすると、CCPにとって大事なことである。敵を大きくしないことは戦略的に大事であるということに加えて、現在不振の中国経済にとって大きなプラスになるからである。
CCPは、自分たちが“正義を実現する強い政権”であると、中国国民に対して強調(洗脳)して来たため、EU、米国それに日本などに対する反撃を、“悪を懲罰する”という姿勢で行う必要がある。それがEUとの対立を本格化してしまった原因だろう。
2)CCP当局のジレンマと、それを解決する別のシナリオ:
中国国民への上記洗脳が溶解消失しないようにするには、国際的な批判に対しては、それを打ち消す位に「強力に正義を実現するCCP」を演出する必要がある。その為のH&M社製品不買運動だったのだが、中国を人権問題で批判しているのはスウェーデンだけではなく、米国や他のEU諸国も同じである。
従って、国民が不買運動がナイキやアディダスなどに発展すると予想するのは自然である。そこで芸能人らは、国の指示の前にそれらのブランドの宣伝から撤退することで、国からの評価を上げようと考えたのだろう。
トランプ政権下での米国の対中国戦略は、中国国民の殆どがCCPの被害者であるというモデルに基づくものであった。(補足3)それは本質論としては正しい筈だが、ナショナリズムに染まった中国国民は、”欧米成敗”の最前線に出て来る可能性が高くなる。(補足4)
そうなれば、CCP当局はパーフォーマンスだけでも欧米との対立を強調する必要がある。つまり、EU等への制裁強化は、経済にとってのマイナスであるが、しなければ「正義を力強く実行するCCP」の信用が失墜するというジレンマに陥ってしまう。
このような事態になった背景には、中国における大きな貧富の差(補足3)がある。それが、中国国民の間に大きな政治的不満(エネルギー)となって蓄積されている。その不満が燃え上がってCCPに向かわないように、CCPは自分たちが正義を実現する側であり、欧米がそれを阻害する側であると国民に宣伝し続けなければならない。
結果として、CCPは国民の不満と諸外国の非難との間に挟まれ、内向的政治に向かっているようだ。排外運動へスパイラルに転落する危険性が大きくなっているとHaranoTimesはいう。
それを解決するために、CCPは新たな手を準備している可能性がある。それは、①ウイグルでの悪事の現場を諸外国に公開して、何もなかったということを示すこと;②そのために証拠隠滅を行う;③どうしても隠蔽できない部分は、ローカルな犯罪として処罰する、の三点セットである。
中国の公安部長らが、最近ウイグルを視察にでかけたというのである。その準備のためだろうというのが、上記HaranoTimesの分析だろう。
補足:
1) 中国を中国共産党(CCP)と呼ぶことには若干躊躇う。しかし、国際社会が相手にするのは中国共産党である。例えば外交のトップは共産党の外交トップ(楊潔篪)であり、中国政府の外交部長(いわゆる外相)である王毅ではない。軍は共産党の軍であり、中国政府の軍ではない。
2)中国のオンラインショッピングでは、H&Mの製品は画面から消されているが、他のナイキやユニクロなどは購入可能であるという。H&M社が、新疆ウイグル自治区での人権侵害を批判して、中国の製糸業者との関係を断つと発表したのは、昨年の9月中旬である。 https://www.afpbb.com/articles/-/3304839 今頃になって、H&M社製品の不買運動を実施したのは、CCPの国内向け宣伝だろう。
3)米国ポンペオ前国務長官は、ニクソン記念館での演説において、中国人民と中国共産党政府を別に考えるべきだと言った。本質論としてはこれは正しい考え方であるが、国民がCCPに洗脳されてしまえば、この考え方での対応にも限界がある。
4)HaranoTimes によれば、2012年現在、中国での所得のジニ係数は0.7を超えているという。俄には信じがたい数字である。日本経済新聞の2012年の記事では、中国の西南財経大学(四川省)の調査結果として、0.61という値を紹介している。所得の再分配が中国では殆どないので、この数値は再分配を考えてもあまり低下しないようだ。https://www.nikkei.com/article/DGXNASGM10079_Q2A211C1FF1000/?unlock=1
ジニ係数については、5年前の記事(2016/9/29)で解説している。個人の富の格差という点では所得ではなく、資産或いは金融資産のジニ係数を判断基準とすべきである。この場合、日本でも現在では0.7以上だろう。https://www.dir.co.jp/report/research/introduction/economics/disparity/20161121_011423.pdf
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