日本では、トランプ氏の率いる米国に対する評価が混乱している。昔のインド由来の言葉「群盲象を撫でる」の様相を呈しているが、群盲は正しくとも、撫でているのは象ではなくキメラかもしれない。群盲とは日本のマスコミや政治評論家たちで、象或いはキメラは、トランプ新大統領が率いる米国である。
今回、久しぶりに馬渕睦夫氏の「和の国の明日を造る」と題する動画をみた。第36回発表から相当長い間経過したので、その間にトランプ新大統領の就任演説を踏まえた話を準備されたようだ。その中で、馬渕氏は以前からの持論通りトランプ氏を高く評価し、日本のマスコミ等のトランプ政権に対する大衆迎合主義という酷評を、米国支配層による洗脳の結果だと批判している。https://www.youtube.com/watch?v=WT3tumsfdhs
その中で馬渕氏は、トランプ氏が米国第一主義を唱えつつ、他国には自国第一主義を勧めていることを、今回の就任演説の一番大事な部分として引用している。私は、アメリカ第一主義の「言い訳(論理の正当性の主張)」として、他国の自国第一主義を言っていると捉えたが、馬渕氏は両方の文節を同等に意味のあるものとして評価している。しかし、アメリカ第一主義は他国の自国第一主義とは共存できない。アメリカ第一主義と共存できるのは、アメリカ覇権主義、アメリカ孤立主義、野生の原理主義(国家間の関係は野生の原理に支配される)などであり、決して国際協調を重んじる路線ではない。つまり、それはこれまでの秩序が好ましいかどうかという問題は別にして、トランプ大統領のアメリカ第一主義はこれまでの秩序の破壊を意味すると思う。
それぞれの国が自国第一主義を取ることになれば、日本のように国際協調にその存立の前提条件とする(憲法前文:平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して我らの安全と生存を保持しようと決意した)国にとって、危機的状況に陥る可能性があると思う。中国やロシアのような地域の覇権国となりうる軍事大国は、自国第一主義でも大きな不安がなく、むしろ米国の西太平洋からの撤退は都合が良いかもしれない。しかし、日本にとっては全く評価できない筈である。
従って、馬渕氏のトランプ政権の方針に対する高い評価はおかしいと思う。この「民主主義は大衆迎合主義に堕落する」との大昔の教訓を忘れたかのような自由主義諸国の混乱を見て、中国は民主主義国の体制は壊れつつあり、自国の体制の方が優れていると言っている。http://www.zerohedge.com/news/2017-01-23/china-says-its-ready-assume-world-leadership
国際政治評論家の田中宇氏がトランプ新大統領の就任演説について書いている。田中宇氏によれば、トランプ政権はクーデター的な変革を考えており、全体像が膨大でその解析が追いつかないそうである。http://tanakanews.com/170124trump.htm
確かなのは、現在の米国支配層による政治を壊そうとしていることである。そして、「トランプは、大統領になって米国の政権(エスタブ小集団)を握ったとたん、米国の政権を破壊し転覆する政治運動を、大統領として開始し、国民に参加を呼びかけている。これは革命だ。」と書いている。つまり、世界へどう影響するかの前に、米国内が内紛の中にあると書いているのである。
我々外部の人間には、米国が一つの意思の下に動き始めているのか、相互補完的に色んな顔をもつキメラなのか、それとも混乱の中にあるのかわからない。私は、時に応じて顔を変えるキメラではないかと思う。米国はこれまでも米国第一主義であった。America Firstと特別に強調するのは、これまでの国際的に積み上げられた人権、自由、公正を重視するという国際的枠組みにも捉われないという意味だろう。そしてグローバル経済下の成長で生じたアメリカ経済の影の部分を蘇らせるための策を、本来なら国内問題として長期間の努力を要するが、これまでの枠組みにとらわれず諸外国に負担を押し付けてでも、一気に解決する方向で作成するという意味だろう。そして一旦没落したWASPと呼ばれる人々を再び豊かな状態に戻し、それを共和党に取り込もうとしている様に見える。もちろん成功するとは限らないが、その期待感から、ダウ平均株価は初の20000ドルを超え(ナスダックも高値更新)ている。混乱の中にある国の株価ではない。
トランプ大統領の「何十年も前から私たちは、アメリカの産業を犠牲にして外国の産業を豊かにしてきました。この国の軍隊が悲しくも消耗していくのを許しながら、外国の軍隊を援助してきました。」という大嘘を評価するなんて、馬渕氏の日本人としての高い評価は馬鹿げている。「他国も自国第一主義を取れば良い」というセリフを真面目に評価するのも馬鹿げている。日本が軍備を強化し、核武装も考えるといえば、直ちに日本封じ込め政策をとるだろう。(1/27pm編集)
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