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2019年8月17日土曜日

日本に愛国心は育つのか;パトリオティズムとナショナリズムに付いての考察

1)言葉の定義:

愛国心を和英辞書で調べるとpatriotismが出てくる。https://ejje.weblio.jp/ 似た単語にnationalismもある。前者は、自分の民族或いはそれが形成する国家を支援する心情である。後者は、自分の帰属する国家の独立や発展を主張・強調する政治的な思想である。なお、それらで特徴付けられる人は、それぞれpatriot及びnationalistと呼ばれる。

両者は、上記解説でも推測できるのだが、混同される場合が多い。そこで、これらを分別定義し、それを手掛かりにして、愛国心について考えて見たい。何れにしても今対象にしているのは、直接統治者の感覚ではなく、(選挙以外の時には)被統治者である者の感覚である。

Patriotismとその名詞形のpatriot(愛国主義者)は、父性paternityと語源を共にする。つまり、patriotism は血縁や地縁の共同体への愛着を意味する。従って、その発揮には、歴史的考察や合理的思考は必須要件ではないだろう。一方、Nationalismはもっと大きな国家という利益社会にたいする帰属意識と定義する。その有効な発揮には相当の知的作業も要求されるだろう。(補足1)

Nationには民族という意味も辞書にはあるが、Nationality=国籍、Nation=国民と考えることにする。そう考えると、米国のような多民族国家でもNationalismを愛国心として定義することが可能である。以上から、国家組織との関連での愛国心をNationalismとし、Patriotism を民族への愛着と支援の心情とそれぞれ定義する。

その様に考えると、熱烈なパトリオティズムは自然に存在し得るが、熱烈なナショナリストと言う言葉には多少違和感を感じる。自然に存在するのは、せいぜい熱心なナショナリストだろう。勿論、ナショナリズムはパトリオティズムの延長上にあると考えるのが妥当だろう。

西欧の国々は、市民革命を経て、国民主権の国家を建設した。民族と国家の線引きが概ね一致する場合、これらの国民国家ではナショナリズムとパトリオティズムの概念的区別は上記のようにできても、その境界は明確ではないだろう。一方、国民主権が完成していない国、例えば専制国家などでは、パトリオティズムが存在してもナショナリズムは育たないだろう。(補足2)

今回の定義では、ナショナリズムには国民主権の国民国家(Nation State)の形成が、その健全な発生の条件となるだろう。以上のような定義と言語的感覚でナショナリズムとパトリオティズムという用語を用いる。(補足3)

2)日本のナショナリズムについて:

上記定義により、「国家の主人公は自分たち国民(或いは民族)である」という意識によりナショナリズム(愛国心)が生じる。そして、現在の国家組織が自分たち国民の意思と責任により形成されていると信じる場合、その国家のために自分たちが何らかの具体的貢献をしたいという気持ちは自然に発生するだろう。それは、正常に存在するナショナリズムの姿だろう。特に愛国心醸成を目的とした教育など必要ない筈である。

このような意味で我が国に、ナショナリズムが存在するだろうか? 私は、NOだと思う。何故なら、日本国民のかなりの部分は、自分たちが日本国の主人公だとは実感していないからである。日本には、未だ支配層と被支配層の分断が残っている。その分断を感じない人も多いだろうが、日本の政治は世襲の政治屋、つまり政治貴族たちが担当していることがその証拠である。

日本の政治貴族たちは、一票の格差と地方の利益に直結した小選挙区制という国政選挙にふさわしくない選挙制度で、その身分を守っているのである。どのような専門職でも、世襲を続ければその質は低下する。実際、日本の政治家には基本的な地理の知識や漢字の知識のない知的レベルの非常に低い者が多く含まれる。

この日本の政治形態は、中国の政治形態に幾分似ている。つまり、産まれながらの身分で分断された国家、政治貴族(中国では共産党員の上層部)と一般民とに分断された国家である。(補足3)ここで政治貴族とは、明治の政変で権力を得た勢力と、その人脈が開発した支配層である。(補足4)

政治家になるには主に二つの道がある。一つは、政治家秘書になり日本のドブ板選挙などの政治活動を実地に学ぶのである。(補足5)政治家の家系にある人は、この経路で政治家になる。もう一つは、芸能人やスポーツ選手などマスコミで有名になれる職からの転身である。彼らは政治的新貴族と呼べるだろう。

それらに対する一般民の反感は、たまに日本中に新しい政治を望む声として膨らむ。そして生まれたのが、日本新党ブームでの連立政権や民主党政権などである。しかし、それらは見事に潰される。その方法は簡単で、官僚のサボタージュであったと思う。政治家は官僚の助けがなくては、国家の運営ができないのである。

国家の政治には利権がつきものである。官僚には、政府系団体への天下りなどの利権を与えると言う暗黙の了解とその継続的信頼感が、現在の与党の政治を支えているのである。もし野党が政権をとった場合、算定済みの利権が失われる可能性があり、それを恐れた官僚たちはサボタージュを暗黙の了解の一つとして行うのだろう。

森友学園や加計学園の時に話題になった官僚の忖度は、その暗黙の了解事項を官僚側が実践したに過ぎないのである。

3)パトリオティズムは政治に混乱を持ち込む:

現在、我々は西欧政治文化の中に生きている。ナショナリズムやパトリオティズムも、その中の言語表現である。そして、西欧先進国のほとんどは、市民革命を経て国民国家を建設した国々であり、そのプロセスを経て世界の主要国つまり欧米の政治は動いている。

その文化を吸収しようと努力したアジアの国として、先ず日本がある。また、その日本からの影響をうけで、同様の政治システムをとった国として、韓国や台湾がある。過去の戦争の結果として、独立を果たした多くの国々も、現在では同様の政治システムをとっている。インド、マレーシア、フィリピン、インドネシアなどの西欧の植民地であった国々などである。

それら全ての国で、同じく国民主権の国民国家を看板にしても、その政治制度は様々に変形されているだろう。日本については、前のセクションで書いた通りである。また韓国では、ナショナリズムというよりも、反日と対を形成するパトリオティズム的な愛国主義が非常に強いようである。日韓問題の異様さは、どちらにも国民主権国家の正常な成立が無いことが背景にあるように思う。(補足6)

  多民族国家の場合、その民族毎に複数のパトリオティズムが存在し、何らかの機会にそれらが大きくなる可能性がある。そのパトリオティズムが、ナショナリズムよりも明確に前に出れば、国家の政治に混乱を生じるだろう。米国にはそのような危険性があると思う。米国は、多民族国家の弱点を克服すべく、人権、自由、法治、などの理想主義的原則を強く表に押し出すことでナショナリズムの醸成を行ってきた。(補足7)

  しかし、トランプ政権になって、パトリオティズムが目立ってきているように思う。世界第一位の経済力と軍事力を持つ限りにおいて、パトリオティズムによる混乱は避けられるだろう。しかし、そうでなくなった時、米国は混乱の時期を迎える可能性があるような気がする。それが、中国叩きを本格的に始めた大きな理由なのだろう。つまり、世界覇権のない米国は、混乱と分解の危機を迎える可能性があると思う。

  今回、素人であるにも関わらず、自分の理解のためのメモとして、上記文章を書いた。その前提で参考にしていただければ幸いです。玄人筋の方のコメントをいただければなお幸いです。

  (8月18日午後、小編集)

補足:

1)機能体組織と共同体組織という用語は、以下の翻訳語である。ゲゼルシャフト(Gesellschaft、ドイツ語)は、機能体組織、或いは、利益社会の意味。その対概念がゲマインシャフト(Gemeinschaft)であり、共同体組織を意味する。現在のような大きな国家は、共同体的性質はあるが、本質として利益社会と見るべきである。

2)中国人民の90%以上は一般民であり、共産党員ではない。彼らが現在の国家体制に愛着を感じる筈はない。しかし、中国の大地と地域や共同体には愛着を感じる筈である。それらは従って、パトリオティズムに分類されるだろう。https://www3.nhk.or.jp/news/special/cpc2017/article08.html

3)Nation Stateは国民国家であり、国民の間に区分けがなく全員を束ねる国家の意味である。この内、上記定義のナショナリズムが正常に国民の間に生じる体制は、国民主権国家である。なお、日本を君主制国家のように見る人も多いが、天皇にはオリジナルな政治権限がないので、議会制民主制の国民主権国家である。英国の場合も、日本に近いのではないだろうか。筆者な素人なので、この辺りの詳細はわからない。ただ今回の話には、これら詳細は話の筋にそれほど重要な影響を及ぼさないと思う。

4)第二次大戦で惨敗したにも関わらず、日本は明治の体制の一部変更で戦後を迎えた。その背景には、米国のエゴイズムと結託した日本の政治貴族とその組織に組み込まれた官僚組織があった。

5)国会議員に地方と中央政府との連絡役的性格を持たせることで、与党政治家は継続的に議席を確保している。そして、一票の格差を大きくすることで、大都会に流入した知識層の国会への進出を防止している。詳細は:中川一郎の死の謎(2)とドブ板選挙:日本の政治文化 https://rcbyspinmanipulation.blogspot.com/2018/01/blog-post_20.html

6)なお、若い人たちは、意外と冷静に現在の日韓問題を考えている。非常に面白いサイトがあったので、引用させてもらう。https://www.huffingtonpost.jp/entry/japan-korea-relationship_jp_5d521439e4b0cfeed1a2081c

7)その理想主義が、どのように米国を含む国際政治に影響しているのか、或いは、利用されているのかも米国を見る上で重要な視点だろう。

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