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2019年8月2日金曜日

三橋貴明や藤井聡が推奨するMMTについて:日本の病気はマクロ政策では解決しない

1)消費税増税反対の意見が、チャネル桜等のメディアにより何人かの経済人により出されている。それはよく分かる。政府が新しい政策をする上で必要なら、消費税増税よりも国債発行する余裕は未だ有る(補足1)と思うからである。現在、景気は低迷しており、消費税増税は景気低迷を長引かせることになると思われる。

補足1:現在、日本銀行は株式の半分以上を財務大臣が保有し、ほとんど国有銀行である。もし、政府と日銀の貸借対照表(バランスシート;BS)を一つにまとめれば、日銀が買い上げた国債はその時点で消滅する。その合算したBSの健全性は、ほとんどインフレ率がゼロであることを考えれば、証明されていると考えても良いように思う。

ここ数年間、内閣参与の浜田宏一氏の指導で、通貨発行量(マネタリーベース)の増加でデフレを克服しようと試みたが、その考え方はうまく行かなかった。この状況の下、内閣参与の藤井聡氏や三橋貴明氏は、現在米国で力を増しているMMT(modern monetary theory;現代通貨理論)の考え方を採用して、もっと財政支出を行うことで、民間企業や個人などの金融資産(マネーストック)を増加させる政策をとるべきだと主張している。しかし、それでは同じような結果、或いはもっと悪い結果になるのではないだろうか。そう思ったのが今回の記事を書いた動機である。(補足2)https://www.youtube.com/watch?v=CMLYpWlQp1E

補足2:monetary baseは中央銀行の貨幣発行残高で、流通貨幣、日銀券残高、日銀当座預金の合計額。Money stockは民間経済主体が保有する金融資産残高で、一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有主体(金融機関・中央政府を除いた経済主体)が保有する通貨(現金通貨や預金通貨など)の残高

私は、素人ながら差し出がましいことを言うことになるのだが、さしあたり消費増税を中止すること、更に、国防環境の悪化を考慮してその部分の予算を増加して、需要増加政策を2−3年行うことには賛成である。しかし、それ以降の国土強靭化などの土木事業に大金を投資するのには反対である。何故なら、MMTそのものは日本では成立しない制度であり、MMT的政策もあまり適さないだと思うからである。

端的に言って、MMTが可能なのは、世界の決済通貨米ドルを発行する米国だけだと思う。MMT的政策を実行するだけの場合でも、自国通貨で国債を発行している国であると同時に、産業に国際競争力がある場合だと思う。何故なら、MMTを採用すれば、財政規律を失ってしまう可能性があること、更に、MMT理論が外国為替、輸出入の影響などを十分考慮しているかどうか怪しいと思うからである。

2)このMMTを考える上で参考になるのは、上記藤井氏らが米国から招いたニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授の記者会見である。https://www.youtube.com/watch?v=ofBu81yJSCA

MMTは、貨幣の発行は政府が必要に応じてお金を使うことによりなされるという体制であるので、通貨発行量を決定するのは、政府の財政支出である。そして、財政支出の歯止めの指標は、物価上昇率である。ただ、実質賃金換算の物価上昇率がどの程度なら、財政支出を増加させられるかについて、上記二つの解説を見る限り明確ではない。供給能力が需要を超えない限りと言う類の話はあるだろうが。

現在、各国の中央銀行が紙幣を発行しており、財政政策は国家により金融政策は中央銀行によりなされる。財政支出は税収と国債に頼って行われ、政府は政府の貸借対照表(BS)を意識して、財政規律を守る。従って、政府機能の効率化は、政府自身が財政状況を判断して行われる。既に記したようにMMTではその動機が、失われる可能性が高いと思う。

MMT的政策を勧める人たちの考えは以下のようである。:

需要が供給力に比べてかなり低くなっている日本のような状況で、需要増を物価上昇が起こるまで、政府の財政が牽引し進めることになる。需要の増加は、企業に供給能力増のための求人や設備投資を増加させ、経済成長を推進する。少なくとも、潜在失業などもない完全雇用の状況までは、財政増加はなされるべきであると考える。

(補足3)財政の大きさの限度の指標を与えるのはインフレ率である。従って、日本では例えばインフレ率が2%程度になるまで財政政策を行うべきである。
補足3:日本は完全雇用状態だというが、おそらく潜在失業がかなりあると思われると日本でMMTについて講演したステファニー・ケルトンニューヨーク州立大教授は記者会見で言っている。

しかし現在の日本では、インフレと財政の関係は講演者の説明ほど単純ではないと思う。それに上記記者会見の最後の方で質問があったように、インフレが突如起こる可能性が排除できない。ミンスキーモーメント(ミンスキーの瞬間)と言うらしい。物価も資産価格も群衆心理に左右され、危険だと気付いた時は手遅れのバブル崩壊ということになる危険性である。つまり、財政とインフレの関係が、線形関数や二次関数のような簡単な関数ではないのが、重要な問題点である。

日本における需要が供給能力を下回る状況は、将来不安が原因であり、日本人が金を使わないから不況なのではなく、経済が不健全であるから病気に備えようという心理の結果だろう。つまり、消費者は日本企業の国際競争力の一層の低下を感じているのではないのか。インフレ率が高くないのは、グローバリズムの結果であり、MMT的政策による需要の上昇が、供給側への圧力と物価への圧力となって経済発展をもたらすという図式は、一時的に働くが永続的ではないと思う。

3)もし、MMT的政策を日本が進めれば、会社の黒字幅が増加するだろう。しかし、それが賃金や設備投資に回ることはないだろう。何故なら、企業の利益剰余金は大きくなっているものの、かれらは労働生産性の向上、新規産業の立ち上げ、競争力向上のための設備投資などにそれを使わない。日本企業の利益剰余金は既に過去最大である。https://www.asahi.com/articles/ASL933C3QL93ULFA002.html

その結果、日本のマネーストックの対GDP比は非常に大きく、M2で見た場合米国の約3倍、EU圏の約2倍である。日本人はマクロに見た場合、実質的所得が増加していることの証明である。これで更にマネーストックを増加させるのは、この部分の解決にはならず、副作用に苦しむことになる危険性大であると思う。また、一般民の一時的な所得増があったとしても、マネーストックの上昇はもたらすが、消費に回らないと思う。せいぜい、株などの金融資産などへの投資に回る可能性が大きいと思う。それはバブルに繋がるだろう。

現在までに、日本銀行は国債をどんどん買って、お金をばらまいている。既に、日本の国債の6割ほどは日銀が買っている。それはこれまでの20年間実質的にMMT的政策をやってきたということだと思う。更に、日銀はREITやETFなどを既に相当買っている。それらは日本の資産の増加、更にそこからマネーストックの増加に寄与しているだろう。

上記三橋氏が国会議員の中で行なった上記講演で、財政支出で貧困層に何らかの政策を施すという主張は、通常の政治であり、MMTとは無関係である。かれらがMMTを主張するのは、別の企みがある。藤井氏の土木へのテコ入れである。偏った部分へのテコ入れは、経済を歪にするだけだと思う。

財政の増加は、国内の需要を増加させるだろうが、海外からの輸入量も増加させる。それは、貿易収支や為替に影響する。日本の不況は、財政と金融の問題で解決が難しいとした場合、そして、MMTは外国為替や貿易バランスの変化なども考慮していないのなら、日本には危険な気がする。

日本のような資源小国であり食の安全保障もされていない国では、外需を一定以上に確保することは円安防止の観点から非常に大事である。現在円高傾向にあるが、政府が放漫財政に至れば、直ぐに円安に悩むようになると思う。そして、安易な財政支出は日本企業の国際的競争力を高めることを阻害してしまう。

日本経済の低迷は政府支出の低迷ではなく、日本企業の開発能力、新規産業の創出レベルの低さ、などに原因の第一がある。政府は行政を効率化する義務を放棄すれば、(何度も言うが)放漫財政に陥る。現在の通貨制度はその放漫財政防止を重視するようにできている。

現在の日本経済低迷問題の解決の要点は、MMTという通貨の革命にではなく、日本文化(価値の文化、労働の文化、人事の文化など)の革命にあると私は思う。

日本の人事では、優秀な者を高いポストに着ける事になっていない。何故、ダイソンの扇風機や掃除機が日本で開発できなかったのか?東芝はその扇風機の開発した人間のアイデアを何故取り上げる事ができなかったのか? 何故、新規産業が日本で発生し難いのか、何故、例えばスマホ決済などの導入で労働生産性の向上ができないのか? 日本経済の治療には、別角度の視点や経済ではミクロの視点が大事であり、マクロには既に精一杯の努力をしてきたと思う。

司馬遼太郎が生前指摘したように、現場には相当優秀な人材がいても、中枢には馬鹿なトップが多い。政治家も同様である。その文化に由来する組織の弱点を如何に解決するかが問題である。財政や金融といったマクロ経済的施策だけを議論していては、日本の弱点は克服されないだろう。 https://www.youtube.com/watch?v=sSNV0Mnh-WY

以上、素人の考えですので、経済に知識のある方のコメントを期待します。

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