昨日、新型コロナ肺炎の防止には、感染者は喋らないこと、感染している人も感染していない人も、マスクをすることが大事であると書いた。喋ると、声の周波数で唾液の着いた声帯を震わすため、唾液は必然的に微粒子となって周囲に飛び散る。従って、汚染空気の微粒子が通らないレベルのマスクであれば、それをしっかり装着すれば、飛沫感染或いはエアロゾル感染は、殆ど完全に防止できるだろう。その場合、ソーシャルディスタンスを採る必要は殆どないだろう。
接触感染の防止には、外出先の誰かが手で触る可能性があるものに無闇に手で触らないこと、触った時は、その手で体を触らないことと、出来るだけ早期に手洗いや濡れティッシュで拭くこと、帰宅後に石鹸で手や顔を洗い、うがい(口と鼻)を丁寧にすることだろう。
1)コロナウイルスは空気中単独浮遊すれば短寿命である
一般にウイルスには、コロナウイルスのように脂質二重膜の殻(エンベロープ)をもつものと、持たないものがある。持たないものは、空気感染する可能性があるが、エンベロープを持つものは、空気感染しないだろう。(補足1)それを以下説明する。
下図はヤフーニュースの記事からとったコロナウイルスの模式図である。球状脂質二重膜で出来た膜の内部に、RNAと各種蛋白質分子が埋め込まれた構造をしている。RNAは、カプシド蛋白に保護される形で、二重膜の内部に存在する。脂質二重膜構造を安定化するのは、周囲に存在する水である。
図(1)コロナウイルスの構造
https://news.yahoo.co.jp/byline/minesotaro/20200421-00174406/ から借用
従って、この構造は体内では安定だが、ある程度乾燥した空気中に単一で持ち出されれば、短時間に破壊されるだろう。従って、空気感染はしないだろう。(補足2)
体内で安定な理由は、細胞間液である殆ど生理食塩水的な水溶液に取り囲まれているからである。勿論、内部のカプセル蛋白に囲まれた形のRNA分子の立体構造も破壊され、感染力は無くなるだろう。感染は、スパイク蛋白で細胞表面の受容蛋白にくっつき、脂質二重膜が融合する形で、起こる。感染のメカニズムは、上記図の引用元の記事に図入りで紹介されている。
ここで、ウイルスでも細胞膜でも、その構造の基礎である脂質二重膜の構造を考える。この解説はウイキペディアにある。
図(2)脂質二重膜の構造
脂質二重膜は、リン脂質が上図左のように整列して出来ている。白丸はリン酸とコリンからなる電気を帯びた極性部分、茶色の鎖は脂肪酸の水をはじく炭化水素の鎖である。白丸一個に鎖が二本ついている(右上)。このような構造が、水の存在下で膜をつくるのは、電気を帯びた極性部分が水と接触を保ち、水に溶けない脂質分子どうしが水を避けて集合するからである。
その基本的な膜形成のメカニズムは、シャボン玉と原理的に同じである。シャボン玉を作るのは、石鹸の成分である界面活性剤分子、基本的に上のリン脂質分子と似た構造だが、炭化水素の鎖は一本の分子である。
図(3)シャボン玉の構造
シャボン玉は、水の層に電気を帯びた部分(上図の右参照)がくっつき、水をはじく炭化水素部分の鎖は、反対側(内外の空気)に揃う。水溶液中では、図(2)のミセル構造をとる。
シャボン玉が空中に浮いている間に、水が蒸発してしまえば、壊れてしまう。壊れるのを出来るだけ防止するために、ポリビニルアルコールなど、保水性の高分子を石鹸液に混ぜてシャボン玉をつくると、相当長い時間構造をたもつ。コロナウイルスは、物理化学的にはシャボン玉に似ている。
ただし、患者から放出されたコロナウイルスは、保水性の物質が唾や痰に含まれるので、それが水分を保つ限りその構造を保ち続ける(つまり、感染力を維持し続ける)だろう。
それらがない場合、単一で空気中を浮遊する場合、短時間に失活する筈である。また、空気中にエアロゾルとして放出されたウイルス含有の唾液粒子も、比較的短い時間(恐らく数分以内)に水分を失い失活するだろう。そして、そのプロセスは夏の方が(相対湿度も低く温度も高いので)、早いだろう。
最後にお断り:
物理化学が専門で、ミセルを研究に用いてきたが、脂質二重膜については、数ヶ月だけ専門の研究室を見学しただけで、ウイルス学では完全に素人である。議論してもらえると有り難い。
補足:
1)ノンエンベロープウイルスでも、感染先の細胞の膜を着て、エンベロープウイルスのように成るものがあるという。http://virus.hatenablog.com/entry/2013/04/03/112751
2)空気感染をする代表的な病気に、結核がある。細胞壁を持つ細菌は、空気感染の可能性があるだろう。エンベロープをもたないで、外側がタンパク質の殻で出来ているウイルスも、空気感染する可能性がある。
0 件のコメント:
コメントを投稿