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2020年7月29日水曜日

新型コロナ:夏でも新型コロナが流行する理由

新型コロナ肺炎(COVID-19; 以下新型コロナ)流行が夏になっても一向に衰えない。WHOも季節性に関する見解を修正した。https://www.afpbb.com/articles/-/3296105 その理由とも関連するのだが、会話、歌唱、歓声などで放出されるエアロゾルに注目した論文等を紹介し、新型コロナの感染の特徴について考察した。

 

日本でクラスターを追い掛けて得た知識として大事なのは、不特定多数が集まり、比較的長時間、会話や歌唱を行う場所で感染が多く発生したことである。ライブハウス、カラオケ、ホストやホステスが相手をしてくれる店など。昼でも夜でも、大勢が集まっての会食などである。

 

従って、これら長時間一定のメンバーと会話、歌唱、歓声を伴う集まる事を前提にした営業は、遠分一定の補償を条件に禁止すべだろう。接触感染の防止は、これまでの対策で十分だが、ホテル等では、ClO2、オゾン、紫外線などによる部屋全体の消毒も考えるべきかもしれない。

 

国や都道府県単位で一斉に規制をするタイプの対策は、無駄が多く経済的打撃となる。ウイルスの種類と感染のプロセスなどから、国民すべてが正しい情報を得ること、それを基礎により緻密なポイントを絞った対策を行政は取るべきである。マスクや”三密”なども、より深いレベルから理解すべきである。

 

1)二つのタイプのウイルスとマスクの有効性

 

ウイルスを伝染対策上で分類すれば、大きく分けて二種類ある。エンベロープを持つウイルスと、持たないものである。エンベロープは日本語で封筒などと訳される英単語で、一番外の脂質二重膜と淡白分子からなる、人など動物の細胞膜と同様の膜である。その内部にカプシドというタンパク質のカプセルと、その中に保護されたように存在する核酸(RNA又は DNA)が存在する。

 

新型コロナなど風邪系の多くはエンベロープを持つウイルスが病原であり、それらは石鹸やアルコールとの接触で不活性化する。エンベロープに、細胞に侵入するための蛋白分子が配置されているからである。その他、一般向けでの報道で殆ど言及されないのは、エンベロープウイルスは乾燥に弱いということである。この理由は4日前に、詳細に説明した。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12613216732.html

 

つまり、水が蒸発する環境では、短時間にエンベロープが壊れて、不活性化する。(追補参照)核酸とカプシド(ヌクレオカプシド)があっても、進化で手に入れた細胞に侵入する方法を失うからである。ただ、ヌクレオカプシドで細胞内に入ることになれば、感染するので、完全な不活性化ではない。

 

一般のマスクが非常に有効と言えるのは、エンベロープ型のウイルスが原因の病気のみだろう。何故なら、エンベロープを持たないウイルスは、ウイルス単体でも空気中で活性を保つ。ヌクレオカプシドの直径は普通0.1ミクロン程度であるので、N95型などの高性能マスクでもそれを完全に濾過するのは無理だろう。(補足1)

 

2)新型コロナウイルスの飛沫感染

 

新型コロナウイルスに感染するプロセスには二通りある。接触感染と飛沫感染である。他の感染プロセスとして、結核などで警戒される空気感染があるが、それは新型コロナやインフルエンザなどエンベロープを持つウイルスが病原体の病気では重視されてこなかった。

 

何故なら、上に書いたように、単独浮遊するエンベロープウイルスは感染性を直ぐに失うからである。しかし、新型コロナの場合、通常の会話で人の口から飛び出す、大きさが1ミクロン程度の唾液等体液を主成分とするエアロゾルでも感染することが分かってきた。これが夏でも流行が継続することと関連があると思われる。

 

これまでの飛沫感染は、咳やクシャミで放出されるもっと大きな唾液の粒を念頭に於いてきた。ソーシャルディスタンスを2m取るという感染予防法は、この飛沫が地上に落下する等で不活性化する半径を念頭に於いて出された方針である。(白木公康氏の緊急寄稿論文の3番目のセクションの最初の節)https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14278 


1ミクロン程度の小さなエアロゾルは通常見えない上、直ぐに乾燥して、そこに含まれる風邪等のウイルスはすべて不活性化されると思いこんでいた。更に、直径1ミクロンの粒子が含む病原体の個数は、例えば直径60ミクロンの咳やクシャミで放出される微粒子のそれの、1/200000 以下である。それらから結論された感染防止の指針が、2m程度離れていれば大丈夫というものである。(咳やクシャミの粒子は、大きい粒子が多い。ただ、60ミクロンが平均という訳ではない。)

 

一般に、感染には一定量の病原を吸い込まないとおこらないので、そのような1ミクロンのエアロゾルを無視する方針は、新型コロナ以外では合理性を失わなかった。つまり、新型コロナウイルス(SARS-CoV2;以下新型コロナウイルス)は、相当感染力が強いか乾燥に強いのどちらか、或いは両方の性質を持つのだろう。以上は、エアロゾルで感染するという現象からメカニズムを予想しただけである。

 

京大准教授の宮沢孝幸氏は、話さなければソーシャルディスタンスを取る必要はないし、マスクをすれば多少離れて話をしても感染しないと解説する。それは、エアロゾル状のウイルス含有唾液粒子を多少吸い込んでも、大部分をマスクで防げば感染の危険性を大きく下げられるからだろう。この宮沢氏の説は、今後新型コロナと我々が共存していく上で重要である。つまり、経済と防疫の両面を考えると、最も良い指針だと思う。https://www.youtube.com/watch?v=P_60Emw32uI&t=440s

 

最初に引用した白木氏の論文には、例えば1ミクロン程度の飛沫でも、湿度が高い場合には数分から30分も感染力を維持すると書いてある。従って、次のセクションで詳細に説明するように、このタイプの感染予防には、マスクをしっかりすることと、例えばエアコンで空気を乾燥させることが大事だろう。

 

もう一つの感染プロセスである接触感染だが、これもエンベロープウイルスでは高温と乾燥に弱い筈である。これは、通常行われているドアノブや手すりのアルコール消毒などで防ぐことが出来る。もし新型コロナウイルスが乾燥に強いとした場合、夏でも寄与する可能性がある。ただ、これまでの方法(手にウイルス含有の唾液等がついても、その手で顔に触らないこと、帰宅後に手を洗うこと)で予防できる。

 

3)夏でも新型コロナが伝染する理由:会話でのエアロゾル放出

 

ここでは、Nature Scientific Reports(2019年2月20日)に発表された「Aerosol emission and superemission during human speech increase with voice loudness」(声の大きさとともに増加する発声中のエアロゾル放出とスーパー放出)と題する論文内容について解説する。この論文は、会話でのエアロゾル粒子の放出が研究されている。https://www.nature.com/articles/s41598-019-38808-z#Fig2 (補足2)

 

 

このW.D. Ristenpartら6名により発表された研究によれば、普通に話す時、声の大きさに比例してたくさんのエアロゾル粒子が喉頭から放出される。ただの呼吸(特に激しい呼吸では多くなる)でも、微粒子の発生はあるが、発声によるものよりもずっと少ない。

 

なお、気道からのエアロゾルの発生とインフルエンザ感染に関する研究は相当ある。それらは、主に咳、クシャミ、激しい息づかい、などとの関連で放出される粒子が対象だろう。声帯の振動で放出されるエアロゾルに関する研究は、恐らくこの研究が初めてだろう。(補足3)

 

この研究では、母音の発声のオンとオフを繰り返して、特別の装置でその粒子数や粒径を観測する。結果は上図のようになる。(元の報告から、概略を手書きした。)英語や、中国語、アラビア語などを話す人でテストしたが、母国語による差は無かったと書かれている。(補足4)

 

上図は、粒径分布を示している。発声に伴う粒径に個人差はあるが、声の大きさには無関係である。呼吸および発話中に放出される粒子は、主に肺の小さな気道内の「流体膜破裂」メカニズムによって、および/または喉頭での声帯振動および内転を介して形成されると仮定されている。(補足5)

 

尚、上図の縦軸をウイルス数に替えれば(黒の線)、そのピークは10ミクロン付近になるだろう。なお、この曲線はこのブログの筆者が模式図的に付け足した線である。根拠は、既に書いたように、粒子の体積は粒径の3乗に比例するからである。つまり、数ミクロンの粒子をマスクで補足することは、新型コロナの感染予防上有効である。これまで、マスクをするのは、感染者が病原菌をばら撒かないことを目的とすると言われてきたのだが、新型コロナでは感染予防のためにもマスクは重要だと言える。

 

更に、エアロゾル粒子が乾燥しない高湿度の環境では、長時間(数分)空気中を浮遊し、それが気道に入ると感染確率は増加する。アクリル製の口の部分だけを遮蔽するガードは、マスクよりも遥かに効果が少ないだろう。

 

咳やクシャミでドアノブなどにウイルスを含んだ唾液が付き、そこからの接触感染を主に考えていたこれまでの我々の考えは、改める必要がある。新型コロナが夏にも感染数が衰えないのは、既に述べたように、エンベロープを持つウイルスでありながら、乾燥に強いのかもしれない。それ故、エアロゾルで放出された後一定時間経過しても活性を失わず、直接吸引されれば感染を起こすのだろう。 

 

以前にも書いたが、冬季には接触感染がより重要になるのは、温度が低く乾燥しにくいからである。特に金属表面や親水的にコーティングされた手すりなどに付着した場合、ウイルスを含む唾液などは失活しにくいだろう。この8月末の高温低相対湿度の時期を超えて、ウイルスが多くのこれば、この秋から冬が心配である。

 

冬季には相対湿度が減少するが、エアロゾル感染の確率はそれほど減少しないだろう。何故なら、放出されたエアロゾル粒子が急冷されるため、相対湿度が減少してもエアロゾルが水分を失う速度が低下するからである。冬季には、マスク着用は、上気道の乾燥からの保護の意味もあり益々大事になる。

 

追補: エアロゾル粒子に含まれる新型コロナウイルスが活性を失うまでの時間は、そのエアロゾルの主成分にもよる。気道の粘膜や唾液の粘性成分は、多くの水酸基を含む高分子を含み、それが水を保つ役割をしている。スーパースプレッダーは、ウイルスを多く放出することと伴に、その粘性物質を多く含むエアロゾルを放出するのだろう。

 

(19時20分、最終編集)

 

補足:

 

1)空気感染が有力な病気でも、マスクは飛沫感染防止に当然役立つ。尚、流行が始まったとき、何時も見ている及川幸久氏の動画では、米国のジャーナリスト ローリーギャレットさんの記事を紹介した。その中で彼女は、マスク着用は不要だと言った。https://foreignpolicy.com/2020/01/25/wuhan-coronavirus-safety-china/

最初のマスク有用論は、咳やクシャミに伴って放出されるウイルス含有微粒子は、不織布の通常のマスクで大部分補足されるという考えに基づく。しかし、米国の人たちはマスクを嫌うからか、室外ではそもそもマスクは不要で、多くの場合室内でも不要だと言ったのである。その論理は、これまでのインフルエンザ流行では、大量死にはつながらなかった。しかし、マスク着用の文化が一般に受け入れられていれば、もっと死者数は減っていただろう。(マスクの種類については、http://www.doyaku.or.jp/guidance/data/63.pdf

 

2)ここで、superemission という単語は、感染のスーパースプレッダーを意識して追加された単語だろう。

 

3)気道からの粒子の放出は既に相当研究されていた。例えば、Journal of Royal Society, Interfaceの2009年9月22日号に、「Aerosol transmission of influenza A virus: a review of new studies」(インフルエンザAウイルスのエアロゾルによる感染:新しい研究の総説)という題名の論文が、Raymond Tellier により出されている。

しかし、その論文をlarynx(喉頭)やvocal (vocal cord, vocal band;声帯)で検索しても、本文中にそのような単語は存在しない。

 

4)感染数や死者数に大きな差があるのは、使う言語に関係するという仮設もあり得る。それが否定されたということである。

 

5)噴霧状の生理食塩水を吸引すると、数時間は放出粒子が減少した。このことの意味は、論文には少しかかれているが、私には理解できなかった。私なら、声帯表面や肺の小さい気道内の体液の表面張力の増加が、粒子生成を妨げたのではないかと考える。

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