米英豪の三カ国は、緊密な軍事同盟AUKUS(Austlaria, United Kingdom, USA) を締結することになった。そして、豪州は一旦フランスと合意していた従来型潜水艦の発注を取り消し、米国から原子力潜水艦の供給を受けることになった。AUKUSがインド太平洋地域に於ける軍事バランスにおいて、極めて大きな意味を持つ。
米国は50年ぶりに原子力潜水艦技術を海外に供与することを決断し、そして豪州つまりオーストラリアは、米英露仏中印(順不同)に続いて世界で7番目の原潜保持国になる。核弾頭を装着した潜水艦発射型ミサイル(以下核SLBM)を搭載する原潜は、戦略的に大きな意味を持つ。核保持国に於いては、他国の核攻撃抑止力をより完全にする為に必須であり、核保持の国連常任理事国全てが原潜を保持する理由である。(補足1)
AUKUSは、明らかに中国共産党政権のインド太平洋地域への覇権拡張政策を念頭においたものである。オーストラリアは当面核兵器は搭載しないと言明しているものの、核保持か否かは国際政治環境に依存すると、対立国は見做す筈。これでオーストラリアは世界の主要先進国としての立場を得る。
その一方、米国はオーストラリアに米原潜を駐留させることが出来る。オーストラリアから南シナ海は近いので、中国が南シナ海の深海を原潜基地にしても、そこから出る原潜を追尾でき、無探知で太平洋に出ることを不可能にする。
このAUKUS同盟の深い意味について、大紀元と契約している唐靖遠氏による遠見快評が解説している。中国は米国から想定されるミサイルに対する有効な防御システムを持たないので、この地域での米国の軍事的優位性が確立されるという。(補足2)
その結果中国は、米国との全面戦争を覚悟してまで、台湾侵攻を実行できなくなる。つまり、米国が争いの何処かで段階で、台湾を放棄せざるを得ないと考えることに期待できなくなったのである。(補足3)この三国軍事同盟は、中国の脅威に震える東アジア太平洋地域の中小の国にとっては朗報だろう。
2)欧州への影響:
オーストラリアによる原潜発注の取り消しに強く反発したフランスのマクロン政権は、オーストラリアに滞在する大使だけでなく駐米フランス大使も召喚した。更に、予定されていた英仏国防相会談までもキャンセルした。https://www.bbc.com/news/uk-58620220
ただ、この反発は、おそらくフランス国民向けのものだろうという考え方がある。それを裏付けるように、バイデンとの会談でマクロンは、米国に理解を示して大使を米国に戻す決断をした。(補足4)https://edition.cnn.com/2021/09/22/politics/macron-biden-call/index.html
欧州諸国はこれまで、中国の強大化した軍事力を中途半端に捉え、それが欧州をターゲットにしていないと考え、柔軟な対中外交をとってきた。それは、経済的利益の享受と正常性バイアスの所為かもしれない。しかし、ここ2年ほどの事態を観測して、ヨーロッパも中華秩序を布くべき地域に入っていることを知っただろう。
フランスもドイツも、環太平洋地域の世界経済における重要性と、相対的に中国の経済力の停滞を予測すれば、そしてこの地域での覇権をAUKUSが抑えると予測するのなら、対中包囲網に協力するようになると予想される。
環太平洋地域の政治的安定性が増加したのなら、環太平洋パートナーシップ(TPP)は、この地域での経済機構としてより重要な意味を持つようになるだろう。それを考えて、中国はTPPへの加盟を申請し、同時に台湾の加盟への反対運動を水面下で始めたようだ。
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20210924-OYT1T50027/
その結果、台湾のTPPへの加盟は、現在中国が日本等TPP関係国に向けたレッドラインとなっただろう。今後暫くは、不用意に踏まない方が良いと私は思う。外交音痴の日本の政治家は、この点に注意すべきである。日本は、AUKUSが拡大されるとしても、オブザーバーにしかなれない。5アイズのメンバーにさえなれない。
一人前の国家でない日本は、その身分をわきまえるべきだと思う。それについては、前回ブログで書いた。
(14時50分、補足2,3の入れ替えなどの他、全体的に編集)
補足
1)第一次核攻撃を受けても、海中深く世界に分散した潜水艦の核搭載SLBMにより報復核攻撃を行いうる。これは現在のミサイル迎撃システムでは防御出来ない。
2)東シナ海は浅い海であり、中国の原潜が基地とすることに向かない。沖縄を手に入れることが出来れば、中国は沖縄の東の深海に原潜基地を作る事ができる。それを防止しているのが、日米安保条約と沖縄の米軍基地である。更に、第一列島線の日本の近くから太平洋に出るには、宗谷海峡、大隅海峡、宮古海峡の何れかを通る必要がある(遠見快評の解説参照)が、日本の通常型潜水艦がそれを監視している。それが、中国が南シナ海を基地化したい理由である。
3)中国のSLBM攻撃が可能な場合、全面核戦争になった場合、米国も致命的な被害を受ける。原潜を南シナ海など中国近海から出られなくすれば、米国の最終的な被害はミサイル迎撃システムから漏れた中国のミサイルによる限定的な被害にとどまる。この最終結果を考えれば、台湾を巡っての対決への道は、チキンレースにはならない。
4)フランスは南太平洋に、ニューカレドニアを始め多くの領地を保有している。(ウィキペディアの「フランスの海外県・海外領土」参照)それらの防衛上、AUKUSは大いにプラスになるだろう。怒ったポーズは国内向けで、実際は、かなりの利益をAUKUSで受けると考えられる。
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