昨夜のNHKスペシャルの内容とその意味:
昨夜のNHKスペシャルは、「決断なき原爆投下」という題で放送された。終戦の年の1945年4月に急逝したルーズベルト大統領のあと、副大統領のトルーマンが引き継ぎなしで大統領に昇格した。原爆の投下に関する引き継ぎもなかったので、開発の進み具合や投下の予定などについても無知だった。原爆開発の責任者であったグローブズ将軍(技術将校出身)から報告書を渡されても、たった20数ベージのものだったが、読まなかったという(補足1)。
原爆開発は最終段階にあり、原爆投下のための509混成部隊は1944年の秋に編成され、原爆投下の目標の選定が最初物理学者を中心に進められた。その効果が最大となる場所を探した結果、第一候補が京都であった。日本の敗戦が確定的になっても尚、原爆を投下する理由は、マンハッタン計画(原爆開発計画)に多額の予算を認めた議会にたいして、説明する責任を考えてのことであった。
その選定報告を聞いた陸軍長官のスティムソンは、京都は認めなかった。その理由は、米国がヒトラーを超える残虐行為を行ったという国際社会の非難を考えてのことである。その考えにトルーマンも賛成した。(補足2)その結果、広島、小倉、新潟、長崎が候補地となった。投下の時期は、日本の天候から考えて8月に投下する予定になっていた。
最初の核実験はニューメキシコ州で7月16日に成功裏に行われた。7月25日のトルーマンの日記には:「原爆の投下の目的は軍事施設に限る。決して女性や子供をターゲットにしないように言った」と書かれている。そしてグローブズ将軍は、広島は日本軍司令部のある軍事都市であると、事実を改竄して広島選定の報告書を書いた。
広島にウラン型原爆が8月6日に投下され、スティムソン陸軍長官はその写真をトルーマン大統領に8月8日午前に見せた。トルーマンは「こんな破壊行為を行った責任は、大統領の私にある」と言った。その数時間後に長崎にプルトニウム型原爆が投下された。トルーマンは8月10日に全閣僚を集めて、これ以上の原爆投下を中止する旨の命令を出した。
原爆投下の責任を感じたトルーマンは、事実を米国民から隠す方向に情報を操作した。つまり、「原爆は戦争を早期に終わらせ、多数の米兵の命を救うために投下した」と放送した。そして、世論を操作するためのこの物語が米国に定着した。
このNHKの作った物語が、どこまで信頼できるのかわからない。なぜなら、広島が軍事都市であるかないかは、大統領自身が独自に情報を探せば出てくることである。トルーマンは大学を出ていない珍しいタイプの大統領だが、その資質を問うという話も全くなかった。日記に書かれた内容も、単に心のアリバイ作りでトルーマンが書き残したのかもしれない。そのような分析を欠いていては、そのまま信じることはできない。疑問が残る不十分な内容だと思った。
補足:
1)なぜこの報告書を熟読しなかったのか、それについては放送で触れられていなかった。
2)ここで理系人間の視野の狭さを嫌という程思い知らされた。物理学者たちとMIT出身で技術将校上りのグローブズは、国際法や一般市民の命よりも米国議会への説明を重視し、文系のスティムソン(イエール大とハーバードのロースクール)は国際社会での米国の立場を考えた。トルーマンは大学を出ていないが、日記には「女性や子供の殺傷は避ける」という記述があり、自由な思考の結果スティムソンの意見に賛成したのだろう。
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