1)日本人のほとんどは、ユダヤ人が親日的感情を持っていると考えている。それはリトアニアで日本通過ビザを多量に発行した杉原千畝(1940年頃)や、上海等においてシベリア経由で逃げてきたユダヤ人を多数救ったという話(1938-41)があるからである。更に、日露戦争の際に日本に巨額の融資をした米国のヤコブ・シフも思い出す人が多いかもしれない。戦費の4割を公債購入という形で貸し付けてくれたのである。
しかし、ユダヤ人資本家たちやそのエージェント達は、日本に強い反日感情を持っていると考えている人がいる。この文章を書くきっかけは、その一人スタンフォード大の西鋭夫氏の無料動画(試聴用)であった。実際、キッシンジャーやブレジンスキーなどの米国支配層のユダヤ系の人をみると、その様な見方が正しい様な気がする。
その理由は、“日本のシンドラー”などがユダヤ人救出に貢献する数年前に、満州の日本軍はユダヤ人に対して酷い扱いをしたからである。つまり、杉原千畝や樋口李一郎や安江仙江(ユダヤのゴールデンブックに記載されている)などの話が始まる前、1930年代の始めからユダヤ人と日本人の関係を見なければならない。
日本人は自分たちに都合の良い話ばかり語り、全体像を伝えないのである。例えばネットには、ユダヤ人を救った日本人の話が満載だが、虐待したとかロシア人を使って、身代金誘拐を働いたというような話はほとんどない。http://blog.goo.ne.jp/ss007_2007/e/3e641909f291165c7fd4a434db5b193d
以前、渡部昇一さんが東条英機も”シンドラー”だったと言う様な話をされていたが、それも多分に誤解だろう。http://jjtaro.cocolog-nifty.com/nippon/2012/02/post-d3d7.html
2)1930年のハルビンには一万数千人のユダヤ人が住んでいた。ロシアでの計画性をおびたユダヤ人虐殺である“ポグロム”(補足1)から逃れて来た人たちが住み着いたのである。ハルビンには革命で追われたロシア人貴族や反革命軍の所謂白系ロシア人も住み着いていたが、満州事変で占領される1932年2月までは、ハルビンは極東アジアにおけるユダヤ人社会の中心として栄えていた。
日本が占領すると、外国人の経済活動を封じるだけでなく、彼らにたいするテロ行為も行った。多くの例があるが、最も衝撃的だったのは、ユダヤ人ピアニストであったシモン・カスペの誘拐殺人事件であった。シモンの父である富豪ヨセフ・カスペ(国籍フランス)は、日本の警察が解決するから身代金は支払わないようにというフランス領事の勧めを聞いて、その支払いをためらっている内に、ピアニストとして大事な指の爪が剥がされ、両耳が切り取られ、ガリガリになった傷だらけの死体となって発見される。
犯人の白系ロシア人はフランス副領事の努力もあって逮捕され、最終的に日本人による裁判に掛けられるが、有罪の判決の後保釈されてしまった。背後には、日本軍がいたからである。
この事件などで、ユダヤ人はハルビンから上海などへ逃げて出ることになった。以上は、九州大学の阿部吉雄氏の論文「戦前の日本における対ユダヤ人政策の転回点」に記載してあったことである。http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac/repository/100000/handle/2324/5463/slc016p001.pdf
この事件の概要は、後述の「フグ計画」について書いた英書にも詳細に書かれている。
所謂“河豚計画”は、日本は欧州で差別されているユダヤ人を勧誘して、満州に移住してもらい、ユダヤ人の資本と強い(と日本人が考える)政治的影響力を利用する計画を進めようとする作戦である。それは、満州三介の一人鮎川義介の発案によるとされ、1938年に五相会議で承認された正真正銘日本国政府の政策である。日本の関東軍が中心になって、満州にユダヤの国を作るという計画であり、実際にそれを進めたのは、陸軍大佐安江仙弘である。
これにより、アメリカのユダヤ資本とアメリカ政府に対するユダヤ人の影響力を利用して、アメリカの対日政策を日本にとって有利な方向に導こうと考えたのである。(上記論文、p10)しかし、それはユダヤ人に対する基本的知識を欠いたまま立案され、当然の帰結として失敗に終わった。
ざっと眺めただけであるが、英語の本「The Fugu Plan」に(補足2)はそのプロセスを1930年代の初めから詳細に記述している。ユダヤ人に対する、担当した安江や樋口を含めて日本人の誤解は、現在は偽作だと考えられている「シオン賢者の議定書」を信じてしまったことによる。更に、ユダヤ人の経済力や西欧における政治への影響力に対する過大視(更に、米国への忠誠心を軽視してしまったこと)である。
1937年からユダヤ人保護政策をとるが、それがハルビンでの残虐行為の後のことであるから(その償いだとしても)、現在日本人が考えるほど、ユダヤ人の日本への好感は期待できないのではないだろうか。
3) 蛇足:
昨今のテレビ番組では、日本が国際的に良い印象を持たれていると感じさせて、自己満足を提供する番組がおおい。日本の技術を学びに来る様に、外国人をテレビ局が招待してその様子を取る番組、あるいは日本を旅する外国人を取材する番組(Youは何しに日本へ?)などである。
テレビ局の動機が、日本人の自尊心を満足させようという浅はかなものであり、非常に醜い作りの番組である。
補足:
1)ポグロムとはロシア語で「破滅・破壊」を意味する言葉である。17世紀からロシア等で行われたユダヤ人の虐殺行為を指す。1543年にマルティン・ルターがユダヤ人の迫害を理論化して提唱する本「ユダヤ人と彼らの嘘について」を出版したという。
2)Marvin Tokayer and Mary Swartz, “The Fugu Plan”, Weatherhill, NewTork, 1979.
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